仕様変更にも減額にも応じたのに、契約しないってどういうことですか!「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(56)(2/3 ページ)

» 2018年06月11日 05時00分 公開

幻の「新フェーズ3」

 事件の概要を見ていこう。

東京高等裁判所 平27年5月21日判決から

ある製造業の企業から、Webで製品マニュアルのダウンロードや商品の注文ができるシステムの構築を請け負った元請け企業が、その作業を下請け企業に二次発注した。開発は以下の3フェーズに分割された。

フェーズ1 要件定義、および基本設計
フェーズ2 詳細設計、および開発
フェーズ3 導入、操作指導、および最終確認

元請け企業と下請け企業は、「全体を通しての基本契約」と「フェーズ1についての個別契約」を締結して作業を実施し、作業が無事に完了して支払いもなされた。

両者は、続いて「フェーズ2の個別契約」を結んだが、その後、エンドユーザーである製造業側から追加機能が要望されたため、フェーズ2以降の開発計画を以下のように変更した。

新フェーズ2 (追加の要件定義、追加の基本設計、詳細設計、モックの開発)
新フェーズ3 (詳細設計、および開発)
新フェーズ4 (総合テスト、受け入れテスト、導入支援)

さらに「新フェーズ2の作業の一部を新フェーズ3に移す」ことなどが協議され、それに伴い「フェーズ2の代金が約20%減額」されることになった。元請け企業は下請け企業にその金額を支払った。

ところがその後、元請け企業は下請け企業と「新フェーズ3の個別契約」を締結しなかった。当然に次のフェーズについての契約もなされるものと考えていた下請け企業は混乱した。

特に、「新フェーズ2の減額は新フェーズ3の発注の約束があったからであり、減額をさせながらフェーズ3の契約をしないことは、債務不履行又は不法行為である」として、下請け企業が元請け企業に損害賠償請求を行った。

“予定”は“約束”なのか?

 両者の間には、個別契約の上位に位置する「基本契約」が存在した。

 期限や費用、具体的な成果物は記されていないが、「この開発を一緒に協力してやりましょう」という意味合いの基本契約がある以上、そう簡単に個別契約締結を拒むことはできないと下請け企業が考えるのも無理はない。

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