部長、GPLをご存じないの?――カーナビソフト開発会社を救うべく単身カーナビベンダーに乗り込んだ江里口美咲は、システム企画部長の木村にタイマン勝負を挑む。
連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。
カーナビソフト開発会社「ジェイソフトウェア」を子会社化したいカーナビベンダー「プレミア電子」。従業員引き抜き、メインバンクに悪評を流す、契約を突然停止する――システム企画部長の木村が繰り出す攻撃の手口に困り果てたジェイソフト社長の三浦は、A&Dコンサルティングの江里口美咲に相談する。
美咲は、ジェイソフトがプレミア電子に提供しているカーナビソフト「ボカ」のソースコードを見て、ほほえみながら三浦に告げた――「逆襲をしなきゃいけないわね」
第1話 ベンチャー企業なんて、取り込んで、利用して、捨ててしまえ!
第2話 大手の下僕として安定の日々を送るなんて、まっぴらゴメンだね!
第3話 あまっあまのスイーツ社長なんて、大手に利用されて当然よ!
第4話 カーナビの要は使い勝手の良いアプリだ。よそには渡さん!
第5話 ソースコードの中に逆襲のネタを見つけたわ
「あのジェイソフトが一流コンサル企業の人間をよこすなんて驚いたわね。今更、何だっていうの?」
「ジェイソフトウェア」の三浦社長が相談してから1カ月後、単身で「プレミア電子」を訪れた「A&Dコンサルティング」の江里口美咲に、開発部長の木村美智子は脚を組んで座ったまま言った。美咲は木村の不遜な態度を気に掛ける様子もなく、やわらかい声で話を始めた。
「木村部長、『パラソーテック』って会社ご存じ?」
木村は眉をひそめた。パラソーテックは家電製品の巨人ともいわれる日本経済のフラッグシップ企業だ。その名は中学生でも知っている。
「どういう意味? 日本随一の電気メーカーを知らない人間がこの国にいるのかしら?」
木村の言葉に、美咲は小さくうなずいた。
「そのパラソーテックの北沢会長がね、『プレミア電子を救済してもいい』っておっしゃってるわよ」
「はあ?」
この女は一体、何を勘違いしているのか。カーナビゲーションシステムで国内はもちろん、世界でも巨大なシェアを占めるプレミアの財務状況は至って健全だ。他社を救済することはあっても、その逆などあり得ない――そう考えていぶかし気な表情をしている木村に、美咲は続けた
「やっぱり、分かっていらっしゃらないようね」
美咲はバッグから1枚の紙を取り出して、木村の前に差し出した。
「これは、ジェイソフトが御社に提供したボカのソースコード」
「それが何か?」
木村は差し出された紙を手に取ることもなく言ったが、気にする様子もなく美咲は会話を続けた。
「冒頭にコメントが付いてるでしょ?」
「コメント?」
木村は机に置かれたままの紙をのぞき込んだ。確かにプログラムの先頭に、英語で書かれた文章が並んでいる。
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「これは……」
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