「満足度」の高いプレゼンでチャンスをつかもう!羽ばたけ!ネットワークエンジニア(7)(2/2 ページ)

» 2018年08月27日 05時00分 公開
[松田次博@IT]
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スライドは締めのまとめから作る

 プレゼンで使用するスライドは以上の5要素を盛り込みながら作成する。スライド作成の順序と、盛り込むべき主要な要素は図2の通りだ。

図2 スライドの作り方 図2 スライドの作り方 作成の順序と盛り込むべき要素

 2018年7月に行ったプレゼンを例に解説しよう。まずプレゼンで言いたいことは何か、まとめのスライドに書く。筆者のプレゼンは案件開拓が目的なので、提案したいことを書く。「お手伝いさせて頂きたいこと」というタイトルで閉域モバイル網とコミュニケーションロボットのことを書いている(図3)。

図3 「まとめ」のスライド 図3 「まとめ」のスライド

 次に表紙に書くタイトルを決める。セミナーはWebやパンフレットで集客する。そこにはタイトルと100字程度の概要しか記載できない。Webやパンフを見る人はまずタイトルに目を通す。興味を持てば概要を読み、受講するかどうかを決める。タイトルで関心を持ってもらえなければ始まらない。そのためには関心を呼ぶキーワードが不可欠だ。

 図4が表紙である。コミュニケーションロボットに関連する“AI”と“ロボット”、閉域モバイル網に関係がある“働き方改革”という3つのキーワードを入れている。このタイトルが良かったのか、セミナーは開催1カ月前に満席になった。

図4 タイトルには関心を呼ぶキーワードを入れる 図4 タイトルには関心を呼ぶキーワードを入れる

 次はプレゼン全体の構成を考えて、目次を作る(図5)。「モバイル化する世界」と「AIは明らかにブーム」の2つは導入部だ。残りの3つが本論である。筆者は聴き手をプレゼンに引き込む導入部を重視している。

図5 目次を作る際は導入部を重視 図5 目次を作る際は導入部を重視

 導入部の「モバイル化する世界」で使ったスライドが図6だ。半年ごとにスウェーデンEricssonが発表するモビリティレポートからの引用である。世界のモバイル加入数が既に世界人口(約76億人)を上回り、その60%がスマホであることを述べる。その後、「スライドに書いていないこと」を話し始める。

図6 「導入部」でのトリビアは口頭で進める 図6 「導入部」でのトリビアは口頭で進める

 “ちょっと古い2016年の総務省情報通信白書の数字ですが、日本の60代は35%の人がスマホを使っています。では中国の60代はどのくらいの人がスマホを使っていると思いますか? 三択で当ててください。77%か、87%か、97%です。77%だと思う方(挙手を促す)”

 “正解は97%です。(多くの人が意外そうな顔をする)中国ではガラケーなんて売っていないのですね。中国の人はスマホを持っているだけではありません。中国の街にはQRコードがあふれていて、道端のレンタサイクルを借りるときにはスマホでQRコードを読み取ると料金の支払いがされて、ロックが解除されます。屋台にも料理ごとにQRコードが掲示されていてそれで支払います”

 “最近では無人のコンビニやスーパーも登場しており、入店時のチェックや支払いにスマホが使われています。50代、60代の人でもスマホを決済に使うだけでなく、格安ツアーの購入をはじめ、さまざまなサービスをスマホで享受しています”

 このようにスライドに書いていない話でスマートフォンの活用、モバイル化の広がりを理解してもらうと同時に、プレゼンに引き込むのだ。

導入部には「はっとさせる意見」も入れる

 「AIは明らかにブーム」という部分ではAI将棋の話をした。最年少棋士として有名になった藤井聡太七段がAIを相手にしたトレーニングで強くなったこと、AI将棋の原理などを説明し、人間の将棋とAIの将棋の比較を示した(図7)。

図7 人間の将棋とAIの将棋を比較する 図7 人間の将棋とAIの将棋を比較する

 “人間は読みを省略し、楽をするためにセオリーに合わない手は最初から考えません。AIはセオリーや定跡とは関係なくあらゆる可能性のある手を考えます。人間は負けが怖いので、守ってから攻めます。AIは客観的に最短で勝てる手を考えるので、人間と比べて攻め始めが早いのです。(中略)”

 “将棋なんて自分には関係ない、という感じで退屈そうにしている方もいますね。関係ないなんて思ったら大間違いですよ。皆さんも、私も、仕事をする上でセオリーを持っています。長年の経験で知らないうちにルールも身に付けている。セオリーやルールにとらわれているから、イノベーションを生むような新しい発想が難しくなっているのです。私たちはセオリーや経験にとらわれないAIを見習うべきなのです”

 単に面白いイントロだけでなく、はっとさせる有用な意見を述べるべきだ。アンケートには将棋AIの話が良かったとわざわざコメントを書いてくれた方がいた。

 プレゼンの本論では当連載で取り上げた「閉域モバイル網中心のネットワーク」「コミュニケーションロボットを活用したサービス開発」を解説した。どちらにも独自性があり、メリットが明確で事例という裏付けがある。

 コミュニケーションロボットの活用ではまとめとして「親しみやすさ、使いやすさ、安全」の3つが重要だ、という話をした。それを証明するものとしてWebブラウザで2018年4月28日の愛媛新聞の記事を表示した(※1)。そこには説明会でデモを手伝ってくれたおばあさんがにこやかな笑顔で映っている。


 “このおばあさんの表情で分かる通り、このロボットは親しみやすく、音声と3つのボタンだけで操作できるので使いやすさも抜群です”

 今回は筆者が満足度の高いプレゼンを発表するために心掛けていることを紹介した。この心掛けのためか、私のプレゼンは冒頭に紹介した「トップボックス」がいつも60%を超えている。ここに書いたことが、少しでも皆さんのプレゼンを効果的なものにする上で役に立てば幸いである。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。企画、提案、設計・構築、運用までプロジェクト責任者として自ら前面に立つのが仕事のスタイル。『自分主義-営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(日経BP社刊)『ネットワークエンジニアの心得帳』(同)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)を経て、現在、NECスマートネットワーク事業部主席技術主幹。


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