筆者を含めて多くの人々は、「企業のアプリケーションやデータのほとんどはどこかのパブリッククラウドに向かう」というイメージを持っている。だが、それは正解なのだろうか? 冷静に考えると、どういうことになるのだろうか?
Nutanix CEOのディラージ・パンディ氏に、「Google Cloud Next in Tokyo ’18」における最大の話題は、ファーストリテイリングとの協業だったと話すと、同氏は小売業(そして製造業や社会システム)に関わる今後最も注目すべき動きは、エッジコンピューティングだと応じた。
「クラウドベンダーは、『機械学習はエッジで実行される必要がある』という重要な認識に達しつつある。データはエッジで生まれる。そして画像などのデータはクラウドに送るには大きすぎる。そこで分析の多くはエッジで実行しなければならない。過去10年にわたり、人々はクラウドがあらゆる処理を行うデータセンターの役割を果たすと考えてきた。それが今では、『クラウドは分散しなければならない』と言い始めている」(パンディ氏)
コンテナやサーバレスを稼働するマイクロ/ナノデータセンターやインテリジェントIoTゲートウェイで、推論や分析を行うケースが今後増えてくる。
その時に欠かせないポイントは2つだという。場合によっては数万にも達する可能性のある多数のエッジを集中管理する仕組み、そして各エッジ機能の構築・運用を「クラウド的」にすることだ。構築や運用をスケールするために、専門家でなくともウイザード形式で、それぞれの極小データセンターにおいて実行することを設定・監視・サポートできなければならない。
また、「GPUやTPUを多数利用できるパブリッククラウドで、機械学習モデル構築のためのトレーニングを実行したとしても、例えばモデルを15日ごとに更新し、数万にも及ぶエッジの全てに適用していかなければならないとしたら、とてつもなく大きな課題になる」
Nutanixはマイクロ/ナノデータセンターやインテリジェントIoTゲートウェイでエッジコンピューティングを行うための統合ソリューション、「Project Sherlock」を(VMwareの「Project Dimension」よりも早く)2018年5月に発表している。
とはいっても、筆者を含めて多くの人々は、エッジコンピューティングは例外であり、企業のアプリケーションやデータのほとんどはどこかのパブリッククラウドに向かうというイメージを持っている。だが、「それは面倒だからではないか」というのがパンディ氏の言外のメッセージだ。
全てをまとめて、どこかに丸投げすれば、楽になる感じがする。もちろん、さまざまな理由はある。資産から経費へと移行できる。既存のアプリケーションについては、インフラの運用から解放される。新しいアプリケーションについては、スモールスタートでき、ニーズに応じて規模を伸縮できる。また、パブリッククラウドは使っただけの課金であり、コスト効率が高いように感じる。そして、パブリッククラウドでしか使えない機能は多い。
パンディ氏も、パブリッククラウドのメリットを否定するわけではない。だが、冷静に考えた場合どうなのかと疑問を投げかける。
まず、パブリッククラウド事業者によって特徴があり、使い分けたいというニーズが今後広がってくる。さらに、オンプレミスのITを、インフラだけでなく全てに関して「クラウド化」できたとしたらどうなのか。
例えばデータベースを、Tシャツのサイズを選ぶような感覚で構築し、自動的に稼働し続けられるように設定した後、専門用語なしに運用できたとしたら、運用負荷は大きく削減できる。また、日常のIT運用で手間が掛かるバックアップ/災害対策にしても、専門家でなくとも画面を数クリックするだけで望みのRPOおよびRTOを実現する設定ができ、後は放っておけば済むとしたらどうなのか。
Nutanixのプラットフォームソフトウェア「Enterprise Cloud OS」では、既存のオンプレミスITで実行されている機能を次々に「クラウド化」している。仮想マシンに始まり、ブロック/ファイル/オブジェクトストレージ、データベース、ネットワークなどが数クリックで設定できるようになってきた。2018年8月には、ビデオプロトコルを活用した高速なVDIをマルチクラウドで実現することを目指し、VDIベンダーのFrameを買収した。
今後、Kubernetesをオンプレミスでクラウド的に運用できる機能を提供する予定もある。Google CloudのGoogle Kubernetes Engineとのハイブリッド構成もできるようになるはずだ。この延長線上に、サーバレス、あるいはFaaS(Function as a Service)もある。
つまり、「パブリッククラウドでしかできない」といったことは、要素技術が汎用化するに従って、少なくなってくる。特に一般企業が頻繁に使うようなサービスにはこのことが当てはまる。すると、一般企業は、各アプリケーションを、オンプレミスを含めてどこで動かすかを、より純粋に、コストおよびコントロールの観点から選択する自由が得られるのだという。
オンプレミスインフラのコスト効率に関して、パブリッククラウドとよく比較されるのは専用ストレージ装置などを使った「三層システム」などと呼ばれる構成だ。だが、Nutanixのプラットフォームソフトウェアの場合、ハードウェアは汎用化が進むサーバのみ。
「時間の経過とともに価値の下がるハードウェアへの支払いは、最小限に抑えられる。反対に、時間の経過とともに(機能が強化され)価値の上がるソフトウェアに支払ってもらえる」(パンディ氏)
そして、各アプリケーションの利用コストを冷静に比較すれば、オンプレミスが安いかもしれないし、別のパブリッククラウドが安いかもしれない。パブリッククラウドが高いか安いかは、どのクラウドのどのサービスをどれくらい使うかによって異なり、一概に言えることではない。一方、Nutanixは大規模顧客に対するEnterprise License Agreement(ELA)の導入も進めようとしているが、ELAの対象になれば一定額を払うことで製品が基本的には無制限に使えるようになり、オンプレミスでの利用が全般的に低コストということもあり得る。
Nutanixは同社のプラットフォームソフトウェアを、年間サブスクリプションライセンスとして提供している。従って、オンプレミスデータセンターへの「クラウド」導入で、膨大な初期コストが掛かるということはない。
さらに2018年中には、同社のプラットフォームソフトウェアをGoogle Cloudのデータセンターで動かす「Xi Cloud」というサービスを提供開始の予定だ。ただし、Xiに関しては、一般的なIaaSやPaaSを提供するわけではない。まず提供するのはバックアップサービスだ。次にはおそらく、前出のFrameによる技術を使ったVDIなどが来ることになる。
Xi Cloudでは、SaaS的なサービスによって、IT運用上の面倒な課題を解決することに焦点を当てている。「まず、現在のITで最も多くの人たちが苦労しているバックアップを、どれだけシンプルにできるかを追求する」(パンディ氏)。
Nutanixは2018年8月30日までの2018年度第4四半期において、200万ドル以上の取引を21件獲得。また、2018年9月には、米防衛省関連の組織から2000万ドルを超える規模の契約を勝ち取ったことを明らかにしている。
パンディ氏によると、これらの案件は全て、小規模での利用に始まり、徐々に利用が拡大していったものという。
「私たちの製品の利用は、スモールスタートで始まる。私たちは、『事前に一括して大きなお金を払う必要がない』と、顧客に対して丁寧に説明している。顧客はデータベース、Splunk、VDI、支社・支店のITニーズ充足など、何らかの用途で小さく始めるが、パブリッククラウドと同様、そのアプリケーションにおける利用規模は自然に拡大していく。これがNutanixの最大の武器だ。アーキテクチャ的に、新たなモジュール(すなわちサーバのこと)をブロックのように追加するだけで拡張が可能だ。このため顧客にとっては、『使っただけ課金』に近いことが実現できる。こうして私たちは、大企業の信頼を、徐々に獲得してきた」(パンディ氏)
最後に、日本市場の特殊性について聞いてみた。
「日本では、国産ハードウェアベンダーの信頼が非常に厚い。そこで、OSベンダーである私たちにとって、NEC、日立製作所、富士通などとのOEM関係の確立が非常に重要だ」(パンディ氏)
Nutanixは2018年9月20日、同社が東京で開催したイベント「Nutanix .NEXT Tokyo 2018」に合わせ、日立製作所とのプラットフォームベンダーディストリビューション契約締結を発表した。
「もう1つ、オンプレミスでクラウドのような使い勝手を実現できるということを分かってもらうということだ。日本の人たちは、エレガンスとシンプルさを好む。一方で、ドイツ人と同様に、自身でコントロールできることを重要視する。エレガンス、シンプルさ、コントロールを全て兼ね備えたクラウド体験が、オンプレミスで実現できることを分かってもらいたい」
パンディ氏が最後に指摘するのはディザスタリカバリ(災害対策)のニーズだ。
「ディザスタリカバリは今でも、多くの日本企業にとって大きなテーマだ。ディザスタリカバリはボタン1クリックで行えるようなものにならなければならない。私たちはXiでこれを提供する。また、日本企業の多くがシステムインテグレーターやOEMパートナーに依存しており、ディザスタリカバリでもこうしたパートナーとの協業は非常に重要なものとなる」としている。
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