Pythonの基本的な言語仕様では、データはどう表現できるのか? 単一の数値データから始め、1次元、2次元、……多次元と複数の数値データを表現できるリスト型のデータ構造まで、ステップ・バイ・ステップで見ていく。
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ご注意:本記事は、@IT/Deep Insider編集部(デジタルアドバンテージ社)が「deepinsider.jp」というサイトから、内容を改変することなく、そのまま「@IT」へと転載したものです。このため用字用語の統一ルールなどは@ITのそれとは一致しません。あらかじめご了承ください。
先生! 確か以前に「機械学習では、特にデータが重要」って言ってましたよね?
そうよ。そもそもAI・ディープラーニングは、データの数値を数学の計算式を使って計算していく技術だからね。この連載では、Pythonでどうデータが表現できるかを、基礎から実践まで1つずつステップを踏みながら説明していくね。
AIの代表格である機械学習やディープラーニングは、もともとはデータ分析やデータサイエンスという分野の技術に過ぎない。つまり、データやビッグデータ(=クラウドなどに溜まる、2010年以前では考えられないくらい膨大なデータのこと)が常に必要になるのだ。
そこで本連載では、「データ」に焦点を絞り、プログラム内でデータを扱うための、Python言語仕様の「リスト型」の基本構造から、実践で活用することになるライブラリ「NumPy」の使い方までを、ステップ・バイ・ステップで紹介する。
本連載は、Pythonコードを手元で実行しながら、読み進めることを想定している。
Pythonコードの実行環境としては、Google Colaboratory(以下、Google Colab)を用いる。Google Colabは、インタラクティブシェルを活用したノートブック形式のオンラインPython実行環境で、(2018年12月時点では)誰でも無償で利用できる。初心者や学習者にはうってつけの環境である。
Python言語のバージョンは3系を使うことを想定している。Pythonのバージョンについては、『機械学習&ディープラーニング入門(Python編)』のLesson 1で解説している。
本連載のすべてのサンプルコードは、下記のリンク先で実行もしくは参照できる。
連載初回の今回は、「Pythonの言語仕様であるリスト型とは何か?」、さらに「そのリスト型が、元々の1次元(1D)から、2次元(2D)、3次元(3D)、……多次元(N- Dimension)へと、次元数を増やせる」ということを理解してほしい。
まずは原点に立ち返って、「データとは何か」から整理していこう。
データ(data)とは、「事実や資料となる情報」のことである。厳密には、複数の事象や数値の集まりのことである*1。
*1 「複数の」と記載したように、英単語の「data」は複数形で、単数形は「datum」(データム)である。
と、辞書的な説明をされても、直感的に理解しづらいという意見はあるだろう。何となくつかみどころがない概念である。
そもそも「データ」は、一般社会でも非常によく聞く単語である。例えばスマートフォンなどでゲームをしたときに、クリアしたステージや得点などの情報(=データ)が保存されるだろう。このように、われわれの日常生活はデータにあふれている。
それはもう、小学生の時からである。例えば「授業の時間割表」や「九九の掛け算表」も、立派なデータと言える。ここで表という単語が出てきたが、実はデータは、表の形式で管理されることがほとんどだ。そのような表形式のデータは、表データ(Table data)などと呼ばれている。
よって、「機械学習やディープラーニングにおけるデータとは何か?」を、誤解を恐れずに平たく言うのであれば、「(基本的に)表形式にまとめられた情報」と説明できる。とりあえず現時点では、この定義を押さえてほしい(※以降で、表という2次元のデータ形式以外にも触れていく)。
具体的な例を考えてみよう。例えば、高校のクラス全員の身長と体重を測って、その値を表形式にまとめてデータを作るとしよう。このクラスには、花さん、太郎くん、次郎くんの3人が所属しており*2、それぞれの身長と体重が次のようだったとする。
*2 データ数が多いと作業や説明がムダに長くなるので、非現実的な話ではあるが、ここではクラスの人数は最小限の3人にしている。
本稿の読者であれば、これを表データにする作業は何ら難しくないだろう。時間割表を作る要領で、図1のように作ればよい。ちなみに図1は、Windows PC上でExcelという表計算ソフトを使って作成した表データ(表計算データとも呼ばれる)である。
以下では、この表データを題材に、Python言語でどのようにデータを表現できるかを見ていくことにしよう。
図1の表データから、最小単位となる個々のデータ要素(数値)を抽出することを考えてみよう。
表データは、説明するまでもないと思うが、横に並ぶのが「列」で、縦に並ぶのが「行」である。
なお、図2-1を見ると、[名前]列に「花」「太郎」「次郎」とある。これらは、数値ではなく、各行に付けられた見出し(header)だと考えられるので、ここでの「Python言語によるデータ表現」からは除外しよう。
すると、図2-1で赤色の円で示したように、
という6個の数値を抽出できる。これらが、表データを構成する最小限の個々のデータ要素、つまり単一のデータ(厳密にはデータム)となる。
では、このような単一のデータをPythonで表現するには、どうすればよいだろうか? ここでは例として、「太郎くんの身長が177.2cmであること」をPythonで表現してみよう。
これは、変数に値を代入するだけだ(※「変数への値の代入」の意味が分からない場合は、下記のコラムを参照されたい)。
このコラムでは、Python言語の基礎文法の一つ、「変数への値の代入」について簡単に触れておこう。
Pythonのプログラム内でデータを保持・管理するには、変数(variable)が使われる。変数とは、「変わる数」という名前どおり、中身が変わる入れ物のことだ。ここでは、何でも入れられる箱をイメージしてほしい。
その箱の中に、177.2といった値(ここでは「単一のデータ」)を入れることになる。「入れること」は、プログラミング用語で代入(assign)と呼んでいる。
代入後の変数(箱)は、オブジェクト(object)と呼ばれる。ちなみに、Pythonのプログラムは、このようなオブジェクトを多数生成して構成する世界なので、オブジェクト指向(Object-oriented)と呼ばれる。また、Python言語自身は、オブジェクト指向プログラミング言語(Object-oriented programming language)と呼ばれる。
177.2は数値だが、文章である文字列値など、さまざまな種類の値が、変数に代入できる。本稿で説明する「リスト型」も、そんな「値の種類」の一つである。この「値の種類」は、プログラミング用語で型(type)と呼ばれている。
実は、数値の型(数値型と呼ばれる)は一種類ではなく、主に次の2つがある。
機械学習やディープラーニングの場合、小数点以下の細かい実数値を計算することがほとんどである。そのため、データの値としては、ほぼfloat型しか利用しない。
なお、float型の値は、厳密には「実数値」ではなく、プログラミング用語で浮動小数点数値と呼ぶ。浮動小数点数値とは、符号と指数と仮数を用いて表された実数値のことであるが、その内容を説明すると長くなってしまうので、ここでは説明を割愛する。「浮動小数点数値は、実数値と同等のもの」と考えておけば問題ない。
以上を踏まえて、「太郎くんの身長が177.2cmであること」を、「箱の中に値を入れる」というイメージで表現するのであれば、図2-2のような感じになる。
本連載においては、「変数への値の代入」といえば、この図を頭の中でイメージしてほしい。
ちなみに、繰り返しになるが、変数に値が代入されたものは「オブジェクト」である点に注意してほしい。しつこいようだが、変数とはあくまで何でも入れられる箱であり、値とはその箱に入れるデータなどである。
それでは、Pythonで、変数に値を代入するにはどうすればよいだろうか? 変数の名前はheightで、値は177.2(数値型、厳密にはfloat型の浮動小数点数値)とする。
Python言語では、代入は=で表現でき、その左辺に変数を、右辺に値を記述する。つまり「変数への値の代入」は、
変数 = 値
という文法で記述できる(※=前後の半角スペースはあってもなくてもよいが、本連載では見やすさのためにスペースを入れている)。
この文法を使って、「単一のデータ」(=Python言語内ではオブジェクトとなる)は、リスト1-1のように表現できる。
height = 177.2
print(height) # 177.2と出力される
ここまでは難しくないだろう。もしprint(height)の意味が分からない場合は、下記の「【コラム】print関数による出力」参照してほしい。
また、リスト1-1の最後の1行は、print(height)ではなく、単にheightのように記述しても、同じように出力される。この書き方の違いについては、下記の「【コラム】インタラクティブシェルにおけるオブジェクト評価の自動出力」を参照してほしい。以下、本連載では、インタラクティブシェルを使用する前提で、heightのように単に変数名だけを記述すれば問題ない場合は、print()関数を使わずに変数名だけで短く記述する。インタラクティブシェル以外を使うことは推奨しないが、使う場合は、各自でprint()関数に置き換えてほしい。
print(height)の意味は、heightオブジェクトの中の値を出力する(=printする: 値の内容を見やすいように整形して書き出す)、ということである。出力先は、実行環境や実行方法により異なる。本稿の冒頭で示した実行環境「Google Colab」であれば、コードセルの下に表示されることになる(図2-3)。
print(変数名)という書き方の文(statement)は、「関数(function)の呼び出し」と呼ばれる、Python言語の基本機能である。
print()関数は、Python言語に最初から標準で用意されている組み込み関数(Built-in functions)の一つである。
Google Colabのようなインタラクティブシェルを用いた実行環境の場合、print()関数を使わずに、リスト1-2のように、変数名(厳密には式:expression)だけの文を書いてもprint()関数と同じような出力が自動的に表示される。
height # 177.2と出力される
しかし、この自動表示とprint()関数の出力はまったく同じとは限らない。自動表示の場合は、あくまで式の評価結果(=開発やデバッグのために得る情報)が出力されているのに対し、print()関数の場合は、人が見るために綺麗に整形された情報が出力される、という違いがある。
例えばリスト1-3は、次回説明するNumPyによりarray型の値を作成して、変数array2dに代入した後、そのオブジェクトの内容を出力している例だ。print()関数と自動表示の出力を見比べると、自動表示の方には「array()」という、(array2dオブジェクトの中にある値の)型の名前が表示されている。開発時やデバッグ時には、このように「array()」などとより多くの情報が表示された方がありがたいケースも多々ある。
import numpy as np
array2d = np.array([ [ 165.5, 58.4 ],
[ 177.2, 67.8 ],
[ 183.2, 83.7 ] ])
print(array2d) # [[165.5 58.4]
# [177.2 67.8]
# [183.2 83.7]]
array2d # array([[165.5, 58.4],
# [177.2, 67.8],
# [183.2, 83.7]])
いずれにしても、場合によっては出力が完全に同じならないことには注意してほしい。
余談になるが、オブジェクトの評価内容は組み込み関数のrepr()関数により得られるので、それをprint()関数で出力すると(要するにprint(repr(array2d))のように記述すると)、自動表示の出力と同じになる。
自動表示を使う場合、もう一つ注意点がある。
Google ColabなどのJupyter Notebook環境では、セルの最後に変数名を書くと、その変数のオブジェクトが評価されて、その評価結果が出力されるわけだが、あくまで評価&出力されるのは、最後の変数名だけということだ。例えば、2つ以上など複数の変数名を1行ごとに書いても、最後の1つしか出力されない。
複数のオブジェクト内容を出力したい場合には、print()関数を使うか、コードセルを複数に分けて記述する必要がある。もしくは最後の行で、
height, weight
のように、複数の変数名をカンマ(,)で区切って書いてもよい。
自動表示の方が、当然、print()関数よりもタイプ数が少なくなり、見やすさも増すため、Jupyter Notebook環境では、好まれて比較的よく使われている(という印象を筆者は持っている)。本連載でも、基本的には自動表示で、print()関数を使うべきところではprint()関数で記述していく。
以上で単一のデータの表現方法は問題なく理解できただろう。次に「複数(1次元)」の場合は、どうデータを表現すればよいだろうか。
先ほどはクラス全員(3人)の身長と体重の個々の数値をすべて箇条書きで書き出した。ここでは、全員の身長と、全員の体重という、測定項目別にデータ群を抽出することを考えてみよう。
先ほども説明したように、表データでは、横に並ぶのが「列」である。なお、[名前]列にある「花」「太郎」「次郎」は、先ほども述べたように数値ではなく、各行の見出しなので、データ表現からは除外する。
すると、図3-1で赤色の円で示したように、
[身長]列の、
[体重]列の、
という2つのデータ群を抽出できる。これらが、単一のデータを一列に並べてまとめた一次元のデータとなる。
では、このような一次元のデータをPythonで表現するには、どうすればよいだろうか? ここでは例として、「3人全員の身長(165.5cm、177.2cm、183.2cm)」をPythonで表現してみよう。
先ほどの例に倣えば、リスト2-1のように、人ごとに3つの変数を使って表現することも不可能ではない。
hana_height = 165.5
taro_height = 177.2
jiro_height = 183.2
hana_height, taro_height, jiro_height # (165.5, 177.2, 183.2)
しかしこれだと、3人程度のうちは問題ないが、データ数が1000人や1万人となった場合に問題となる。とても手書きできる量ではないからだ。
そこで、複数の値を一列にまとめて、1つのデータオブジェクトとして扱うために使われるのが、リスト(list、他のプログラミング言語にある配列:arrayと同じもの)という型である。つまり、「一次元のデータ」は、Pythonでは「リスト」型の値(リスト値)で記述するということだ。リスト2-2が、実際にリストを使ってデータを表現したコード例だ。
heights = [ 165.5, 177.2, 183.2 ]
heights # [165.5, 177.2, 183.2]
リスト2-1に比べると、リスト2-2はすっきりとシンプルなコードになっているのが分かる(※なお、hana/taro/jiroなどの名前は、AIの計算対象の数値ではなく不要なので、データに含めていないことも、コードがすっきりした理由の一つだ)。
このコードの挙動は、図3-2のようにイメージしてほしい。
単に「リスト」と言えば、このように1列に並ぶ1次元リスト(1D list)を意味する。さらに、リストの中にリストを入れていき、その入れ子構造の階層を深めていくことで、2次元リスト(2D list)、3次元リスト(3D list)、4次元リスト(4D list)、……というデータも作れるわけである。具体的に見ていこう。
では、2次元リストはどうやって表現すればよいのか。
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