エアロセンスが取り組んだ、「1万平方メートルのシートで1円硬貨大の破れ発見」作業ドローンと機械学習を活用

自律運行ドローンを使った測量などで知られるエアロセンスは2019年1月24日、同社が関わっている福島県での、ドローンと機械学習を使った除染除去物仮置き場の点検自動化について説明した。

» 2019年01月25日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 広大な地域をカバーする必要のある点検作業をどう効率化するか。これはさまざまな業界で共通の課題だ。自律運行ドローンを使った測量などで知られるエアロセンスは2019年1月24日、同社が関わっている福島県での、ドローンと機械学習を使った除染除去物仮置き場の点検自動化について説明した。

エアロセンス取締役COO、嶋田悟氏

 東日本大震災に伴う原子力発電所事故に起因する放射能汚染に関しては、除染作業が続けられてきた。除染作業で取り除いた土などは、仮置き場に3年程度保管され、その後中間貯蔵施設に送られる。仮置き場では、除去物を収容した容器や土のうを防水シートで覆い、放射性物質の流出を防ぐ対策が講じられている。

 福島県南相馬市では、竹中工務店、竹中土木、安藤ハザマ、千代田テクノルで構成される共同企業体(JV)が市の委託を受け、除染作業を実施している。同JVが採用しているシートは通気型で、内気を逃がす排気パイプが不要である代わりに、経年変化などによって1円硬貨大などの小さな破れが発生しやすいという。このため、人が地上高約3メートルに積み上げられた除去物の上に乗り、2カ月に1回といった頻度で、目視により点検する必要がある。

仮置き場の全体像(例、後述のオルソ画像)
仮置き場シート上部に生じる破損の例

 この作業をドローンで自動化できないか。こうした依頼を受けたエアロセンスは、同市内の1区画当たり平均約1万平方メートル、160カ所に及ぶ点検作業について、ドローンを使った自動化の仕組みを2017年11月から提供していると、エアロセンス取締役でCOO(最高執行責任者)の嶋田悟氏は説明した。

機械学習による破損検知は難しくなかった

 1カ所当たり約1万平方メートルと、対象は大きい。しかも「破れ」は、正常な状態と大きく色が変わるなどのことはない。屋外で日光の影響なども考え合わせると、機械学習によって1円硬貨大の破損を検知するのは難しい作業なのではないか。そう考えて聞くと、エアロセンス クラウドサービス部 シニアソフトウェアアーキテクトの菱沼倫彦氏は、それほど難しいわけではないと答えた。

エアロセンス クラウドサービス部 シニアソフトウェアアーキテクトの菱沼倫彦氏

 基本的な手順としては、まずドローンに仮置き場の上を飛行させ、高精細の画像をくまなく撮影する。1区画について100〜500枚を撮影。所要時間は10〜20分という。この撮影データを区画ごとにつなぎ合わせ、正確な位置情報を反映する真上から見たような1枚の画像(「オルソ画像」と呼ばれる)を生成する。次にこのオルソ画像に対して機械学習を適用し、破損箇所を識別してマーキングし、JVのオペレーターに提供する。

 この一連の作業は、エアロセンスが設立当初から力を入れているドローンを使った測量作業などで日常的に実施しているワークフローと、何ら変わるところはないという。ドローンおよびこれに搭載しているカメラも、測量に使っているものと完全に同一という。ただし、撮影は地上高約10メートルで行っている。

破損個所検出のワークフロー

 では、機械学習によって破損箇所を特定するための準備は、どのように行われたのか。

 エアロセンスでは、ドローンによる撮影データを基にしたオルソ画像を、JVのオペレーターに1枚ずつ見てもらい、破損箇所を指摘してもらった。こうして集めた正解画像は約1000枚。これらを不正解データ約1万枚と合わせて、Tensorflowを通じ、画像の機械学習処理に適したアルゴリズムである「Convolutional Neural Network(CNN)」を適用した。機械学習モデル構築作業は短期間で済み、データがそろってから約3カ月でサービスを提供できたという。

 エアロセンスは、今回の機械学習で100%に近い精度を目指したわけではない。最終的には人がオルソ画像を確認することで、的確な結果を得ることができるという考えからだ。そのため偽陰性の発生が限りなくゼロに近くなるようにチューニングしている。いわば「破損箇所の候補」をオルソ画像にマーキングしたものをJVに提示することになっており、偽陽性は約10%という。

 JV側にしてみれば、こうした最終確認の作業は残るものの、危険も伴う現地での確認作業はなくなった。候補から破れと思うものを選択するだけで済む。全体の作業時間は以前と比べ、約60%短縮できたという。

 エアロセンスは創業当初からGoogle Cloud Platform(GCP)を活用し、ドローンが取得するデータをクラウドで分析し、結果をクラウド上で提示するサービスを構築している。今回のドローン点検も、このサービスの一環として構築した。

 機械学習についても、同社は当初から、測量で必要となるマーカーを、オルソ画像上で自動的に識別する仕組みを構築・運用しており、菱沼氏によると、この当初の環境構築の方が時間と労力を要したという。

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