現時点でも、AIで一部のビジネス課題を解決できる。だが、われわれはまだAIに関して初期段階にあることを認識すべきだ。長期的なスパンで考えることで、AIのメリットを高め、リスクを軽減すべきだ。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
2019年の今、車は普通の乗り物だ。しかし自動車のアイデアが生まれてから、われわれが車を使いこなす生活を送るようになるまでには250年かかった。それを支える物理的、社会的、経済的な条件がまず整う必要があった。
人工知能(AI)も同様の発展過程をたどっている。アイデアが登場したのは60年以上前だが、AIが現代の生活に組み込まれるには時間が必要だ。
「AIにはとてつもない可能性がある。だが、こうした未成熟な技術には、重大な投資リスクもある。AIのリスクを軽減し、メリットを高めるには、自動車と同様の時間的スパンで考えるとよい」と、Gartnerのアナリストでディスティングイッシュト バイスプレジデントを務めるジェイミー・ポプキン氏はアドバイスする。
ほとんどのCEO(最高経営責任者)は、AIが自社のビジネスにとって非常に重要になると認識している。だが、実際にAIへの取り組みに着手している企業は極めて少ない。最近、Gartnerが行ったCIO(最高情報責任者)に対する調査では、AIを自社に導入済みの回答者は全体の4%にすぎなかった。
AI導入の先駆的企業である英国のネットスーパーのOcadoが、完全に自動化されたAI配送チェーンを構築する構想を進めている。多数の倉庫ロボットが商品を人間のピッカー(注文品をまとめるピッキング担当者)の元に運び、ピッカーがそれらをバスケットに入れる。AIベースのコンベヤーシステムがそれらのバスケットを配送トラックの元に移動する。商品を保管場所からトラックまで運ぶのにかかる時間は10分だ。Ocadoの倉庫は現在、1日当たり130万個の商品を配送している。
現在でも、アプリケーションを注意深く開発すれば、ビジネス課題をAIで解決できる。だが、早々と成功しても勘違いしてはならないと、ポプキン氏はクギを刺す。代わりに、われわれはまだ初期段階にあることを認識すべきだという。
「長い目で見れば、AIの現在の使い方から得られる価値よりも、AIについてこれから学んでいくことから得られる価値の方が大きいだろう」と、ポプキン氏は語る。
「技術が成熟すれば、現在のアプリケーション、使い方、AIベースのビジネスモデルは、軒並み時代遅れになるだろう」(ポプキン氏)
AIは、将来重要になる機能分野全般にわたってまだ未成熟だ。GPUやディープニューラルネットワーク、自然言語処理といった汎用(はんよう)の中核技術への取り組みがかなり集中している。
AI開発が進む中で、一連の急速な進化のサイクルが回り出すとともに、中核技術の応用も広がるだろう。これらに伴い、日々使われる幅広い商品やサービスが開発されると予想される。
「AI産業は今後75年間、複数の世代にわたって展開され、新たな用途や市場、さらには産業も生み出すだろう」(ポプキン氏)
今、戦略を計画するプロセスでは、長期的なビジネスを見据えて先を読む視点が必要になる。経営チームに、「60年後、われわれはAIをどのように使っているか」を考えるように進言するとよい。
戦略計画のスパンは7〜10年に広げ、近視眼的な計画にならないようにすべきだ。さもないと、R&D(研究開発)、ビジネス計画、投資判断に悪影響が出る恐れがある。
もっとも、長期計画を立てるのは難しい。ほとんどの戦略計画プロセスは、75年といったサイクルと比べて短い期間を対象としている。3〜5カ年の戦略的事業計画、2年の予算サイクル、四半期業績といった具合だ。
それでも、計画のスパンを広げることは、以下のような幾つかの一般的な落とし穴を避けるのに役立つ。
出典:Exploit AI’s Long-Term Potential(Smarter with Gartner)
Director, Public Relations
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