VMware Cloud on AWSの概要とユースケース連載:詳説VMware Cloud on AWS(1)(3/3 ページ)

» 2019年04月11日 05時00分 公開
[大久光崇ヴイエムウェア株式会社]
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VMware Cloud on AWSの代表的なユースケース

 上記のような特徴を持つVMware Cloud on AWSは、既に最初のリリースから1年半以上が経過し、多くのユーザーが利用している。端的にいえばAWS内でvCenter Serverのインターフェースを提供するサービスのため、オンプレミスでのvSphereと同様、使われ方はさまざまである。とはいえ、以下のようなある程度の傾向が出ている。

  • データセンターの拡張
  • クラウドへの移行
  • 災害対策
  • 次世代アプリケーション対応
VMware Cloud on AWSの代表的なユースケース

 以下では、それぞれのユースケースについて見ていく。

データセンターの拡張

 ユーザーによっては、クラウドで運用するよりもオンプレミスで運用した方が効率的なケースがある。例えば、規模が大きいため、ハードウェア/ソフトウェアで各種のディスカウントが効く場合や、オンプレミスにデータセンター建屋や工場の発電機といった長期間の償却が必要な固定資産を所有している顧客である。しかしながら、このような顧客においても、VMware Cloud on AWSは注目されている。これは伸縮性に対する、時間的制約とオンプレミス設備の伸縮性の制約によるところがある。

 インフラを新設や拡張を行う場合には、ハードウェア/ソフトウェアの調達・設計・構築・試験といった作業が必要となり、これには数カ月から大規模なものでは年単位の時間を要する。しかし、ビジネス機会がそうした時間軸と合わない場合、機会損失を招きかねない。また、こうしたビジネス機会で利益を得られる期間がハードウェア/ソフトウェアの償却期間よりも短いことも考えられる。さらには、見込んだ規模のビジネスがなかった、あるいは、ビジネスの状況が前提と変わってしまい利益が見込めなくなるということが、インフラを用意した後に明らかになることもある。このようなケースでは、迅速に環境を拡張でき、オンプレミスとクラウドでのワークロード分担が可能で、縮退が容易なVMware Cloud on AWSの特徴が生きる。

 また、オンプレミスのデータセンターの効率性を極限まで上げるために、VMware Cloud on AWSの利用を検討している顧客が存在する。効率性を上げるには仮想マシンの集約率を上げることになるが、これはオンプレミスのリソース不足を招くリスクを高める。この時、オンプレミスからあふれてしまうリソースについては適宜VMware Cloud on AWS側に逃がし、オンプレミスの超過分のリソースの受け皿としてVMware Cloud on AWSを利用できる。

 このユースケースでVMware Cloud on AWSを利用しているユーザー企業の一社に、中東のゲーム会社Playtikaがある。同社ではオンプレミスのデータセンターの容量が上限に達してしまい、拡張先を探していた。24時間365日サービスを提供しているため、既存のツールの流用、運用スキルの活用、そしてライブマイグレーションが要件として挙がっていた。そこでPlaytikaは、650以上の仮想マシンを5日間でVMware Cloud on AWSに移行した。

クラウドへの移行

 「クラウドファースト」を掲げている企業は数多い。しかしながら、クラウドへのアプリケーション移行はアプリケーションアーキテクチャの変更で、多くの時間とコストを必要とする。また、仮想マシンを変換してクラウドに持ち込むとしても、変換時間の長さやIPアドレスを引き継げないといった制約、さらには再テストを行う工数を確保できない、古いシステムで担当者や設計書の引き継ぎが曖昧など、さまざまな困難が付きまとう。

 VMware Cloud on AWSでは、クラウドとオンプレミス間の容易な仮想マシンの移行を実現するHCXが、これらの制約を取り払う。仮想マシンを無停止でそのままクラウドに持ち込めるため、クラウドへの移行をオンプレミスでのvMotionと同列の運用とみなし、これまでの常識を超えるスピードでクラウドへの移行を達成している顧客もある。

 そのような顧客の例に、Black Mountain Systemsやマサチューセッツ工科大学(MIT)がある。Black Mountain Systemsでは、コロケーション先の契約が切れるタイミングに合わせ、30TBの仮想マシン380台を20日でVMware Cloud on AWSに移行した。これにより、既存ツール、運用スキルセットをそのままにクラウドへの移行を適切なタイミングで実現しており、将来的にはAWSのサービスも組み合わせたアプリケーションの開発も視野に入れている。MITは、さらに短期間での移行を実現した。最初の移行対象仮想マシン300台を96時間以内にライブマイグレーションし、最終的には550TBの仮想マシン2800台を45日で移行した。

仮想デスクトップのクラウド化

 このようなデータセンター全体の移行を検討している顧客の中には、仮想デスクトップ環境をVMware Cloud on AWSに移行し始めているところがある。サーバ環境が VMware Cloud on AWSへ移動した後に間髪を入れず、それらを利用する仮想デスクトップも同じVMware Cloud on AWSへ移行させてしまうことで、インフラ環境の効率性とユーザーのUXを高めるという狙いである。ワークロードが均質で、時間帯により使用率が大きく変動する仮想デスクトップは、スケールアウト型で伸縮性を持つVMware Cloud on AWSのアーキテクチャとの相性が良い。VMware Cloud on AWSは2018年夏のリリースより、Horizon 7をサポートしており、元々仮想デスクトップが普及している日本ではHorizon on VMware Cloud on AWSを利用する流れが顕著になってきている。

災害対策

 災害対策もVMware Cloud on AWSのポピュラーなユースケースである。従来の災害対策には、実現に向けて幾つかのハードルがあった。災害対策向けのデータセンターの立ち上げ、災害時に利用するリソースやキャパシティーの確保、同期/準同期機能を持つ同一ベンダー/同一モデルのストレージの利用などの要因が、災害対策を高コスト化させ、その実現を躊躇(ちゅうちょ)させてきた。

 VMware Cloud on AWSでは、新しいSDDCを数クリックで作成することができ、そのSDDCへの接続もAWS Direct ConnectやIPSec VPNなど多彩な接続方法が用意され、データセンターの立ち上げの迅速化を促進する。また、VMware Cloud on AWSでは必要に応じてキャパシティーをオンデマンドに変動できるので、平時のコストを抑えつつ、災害時に必要なキャパシティーを用意するといったことが可能になる。さらにデータ同期に、ハイパーバイザに組み込まれたvSphere Replicationを用いることで、両拠点のストレージハードウェアを同一ベンダーで固定する必要がなくなる。

 災害対策環境にVMware Cloud on AWSを採用した顧客の一社にPHH Mortgageがある。同社では、災害対策先のデータセンターの契約更新の前に、複数箇所のデータセンターに存在する350の仮想マシンをVMware Cloud on AWSに移行・統合し、災害対策環境をモダナイズした。これにより、インフラの複雑性が最小化し、クラウドによる俊敏性を得ることができ、さらにはサービス利用となるため設備投資(CapEx)を抑えることができた。

次世代アプリケーション

 VMware Cloud on AWSを利用する顧客は、既存のアプリケーションを運用しつつも徐々に次世代のアプリケーション、アプリケーション開発を志向し始めている。次世代の開発環境で必要となる伸縮性のあるインフラの実現や、機械学習/AIなどを含めたSaaSの、既存のアプリケーションへの連動を検討し始めている。そして伸縮性のあるインフラと次世代アプリケーションに欠かせないSaaSを低遅延広帯域で使える環境を求めた、VMware Cloud on AWSの採用も増えている。

 このような顧客に、英国最大の公共交通を運営する Stagecoachがある。開発手法のモダン化とアプリケーションアーキテクチャのモダン化の両方を進める上で、既存の環境ではビジネスの速度に対応しきれなくなってきていた。しかし、公共交通機関であるが故に、ミッションクリティカルなワークロードも多数保有している。Stagecoachでは、ミッションクリティカルなワークロードをAWSの複数のアベイラビリティゾーンに跨がるSDDCに移行させることで、アプリケーションのアーキテクチャを変更せずに、ミッションクリティカル性の維持と上記のモダン化を同時に進めた。

まとめ

 VMwareは、長年の実績を持つvSphereと、近年導入が進むvSAN、NSXにより、オンプレミス環境をSoftware Defined Data Centerとして進化させてきた。それらとパブリッククラウドの雄であるAWSとを組み合わせることで、VMware Cloud on AWSはオンプレミスとの親和性を高めたハイブリッドクラウドを実現している。本連載では今後、このVMware Cloud on AWSについて、ネットワーク、ストレージ、AWS連携、クラウド移行、ロードマップなどを詳細に解説していく予定である。

筆者紹介

大久 光崇(おおひさ みつたか)

ヴイエムウェア株式会社 ストラテジックアライアンス本部 スタッフテクニカルアライアンスマネージャー。外資ハードウェアベンダーでインフラ構築に従事した後、2010年にヴイエムウェア株式会社へ転職。コンサルタント、製品スペシャリストを経て現職。現在は、OEM パートナーへの技術支援と新規サービスの立ち上げに従事。


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