2019年5月8日に開催されたIntelの投資向け説明会「2019 Investor Meeting」で明らかにされたIntelの戦略を筆者が分析する。2019年7月には10nmプロセス製造による次期プロセッサ「Ice Lake」がリリースされるという。
2019年5月8日、Intelの投資家向け説明会「2019 Investor Meeting」というものが米国カリフォルニア州サンタクララにあるIntel本社で開催されたようだ(Intelのプレスリリース「2019 Investor Meeting: Intel Previews Design Innovation; 10nm CPU Ships in June; 7nm Product in 2021」)。直訳すれば「投資家会議」。実体はアナリストと呼ばれるような人々向けに今後の方針などを説明する会合らしい。
決算に関わる重要事項は、すでに別の機会に公表済のはずだし、また市場に向けて新製品をにぎにぎしくお披露目する場でもない。相手がアナリストなので、株価をミスリードするようないい加減な話はできない。とはいえアナリストの人たちに好感を持ってもらいたい。前向きで期待を持てる線に話を持っていきたい、というところであろう。
直近の話については根拠のある堅い線で経営層が「コミット」した方針を述べ、加えてすでに動いている期待の開発案件をからめて説明するといった場なのだろう。
第1は「なかなか出てこない」「遅い」「トラブっているのか」などと散々な言われようだった10nmプロセスで、2019年7月から量産品の出荷を始めると言いっていることだ。7月出荷ならば、すでにファブで「流動中」のはずだ。モバイルPC用の開発コード名「Ice Lake(アイスレイク)」が最初の製品となるそうだ。
Intelが量産品というからは、それなりの数量であり、出荷が7月といっているので、この夏にはPC製造者の手元に届かなければならない。時期的にいえば主としてクリスマス商戦向けの仕込みに使われるのだろう。ブツブツ言われていた10nmについてハッキリさせたい、もういい加減なうわさ話は止めてくれ、という印象を受ける。
その前提として、Intel経営層としては、例の品薄話(頭脳放談「第225回 なぜ『IntelのCPU不足』はなかなか解決されないのか?」参照のこと)はすでに解決済という立場のようである。
それこそうわさ話だが、Intelはかなり無理やりな手段で出荷数量を増やしているようだ。その1つにコンシューマー向け製品で内蔵しているGPUを「外して」、GPUレスで売っているという話がある。オンチップのGPUは面積的にかなりな割合を占める。そこでの不良に目をつぶり、GPUレス品として出荷すればトータルでのイールド(歩留まり)は相当改善するはずだ。イールドが仮に10%増えれば、すなわち出荷可能な数量は10%増える。これは大きいけれどもInvestor Meetingではそんな説明は何もない。ともかく、現行プロセスでのショート問題は過ぎさった、次は10nmだ、という前向きな姿勢である。
10nmでは、「Ice Lake」に続き、他のクライアント向け、サーバ向けのプロセッサ、FPGA、AI向けのNervanaプロセッサ、後で触れるディスクリートなGPGPU、そして「Snow Ridge(スノーリッジ)」と呼ぶ5G SoCを次々と出していくそうだ。
最後など「あれ、Intelは、5Gを止めたんじゃなかったの?」と思われる方もいそうだ。しかし、つい先日Intelが発表したのは、AppleのiPhone向けにIntelが開発していた5G無線チップの開発を断念したという話だ。
Appleは、Qualcommと長年特許問題で争っていた関係から、Qualcomm製ではなく、Intelの無線チップを採用してきた。5GについてもIntel製を使うはずだったのだが、急転直下、Qualcommと和解して、その条件の下、Qualcommの5G無線チップを買うことになったので、Intelの目がなくなったという件だ(Appleのプレスリリース「QualcommとApple、すべての訴訟の取り下げで合意」参照のこと)。
Intelにしたら、「Apple抜きでスマホ向けの5Gチップをやっても商売にならないから止めた」ということで、5Gそのものを止めたとは言っていない。5G基地局向けの「Snow Ridge」などは続けるということだ。
第2は、足元を固めたように見える10nmの件の先に、さらに景気を付けたい将来話である。7nmプロセス製品は2021年に出荷予定という項目だ。これについては、2年も先の話だし、「コミット」とは違う言い方である。
散々、10nmでは待たせてしまったが、7nmは「今度はすぐだよ」とアピールしておきたい、という感じ(繰り返しません、とは言っていないが)。開発中プロセスとはいえ、そんなに根拠のない話をするはずもないので、7nmの量産に早くたどり着けるような判断をした、と考えるべきだと思う。
多分、10nmでやりすぎててこずった経験から、「トラブリそうな挑戦はせず、手堅い線で手早くまとまりそうな線に決めた」のでないかと想像する。そうしないとIntelの経営がとてもマズイことになるという認識があるのだろう。
そこで登場するのが、Intel X architecture-basedのGPGPUという第3の項目だ。Intelが、ディスクリートのGPGPUを作って売るという話だ。これはちょっと目新しい話でもある。多分、開発そのものは、Intelが受注済のスーパーコンピュータ(HPC)向けに相当進行しているものではないかと想像する。
スーパーコンピュータに使うのと、それ以外の需要家への出荷では時期的には違うのかもしれないが、最初の製品は2020年だと言っている。前述の通り、最初の製品のプロセスは10nmになるようだが、2011年の7nmプロセスはこのGPGPUで立ち上げるそうだ。
ただ、GPUとはいえ、NVIDIAのGeForceなどの一般消費者向け製品とぶつかるようなものではない。NVIDIAがバカ高い値段で売っているTesla系のGPGPUとぶつかるクラスである。スーパーコンピュータやデータセンター(それもAI処理など必要な)向けだ。
スーパーコンピュータのメインCPUとしては、Intelのシェアはいまだに高いが、アクセラレーターとしてはNVIDIAがかなり存在感を発揮してきている。Intelとしては、メインCPUのIntel Xeonに対して、アクセラレーターとしてXeon Phiを組み合わせるというマシンを推していたはずだし、スーパーコンピュータにはそういう構成のマシンがそこそこある。その場合x86でコードを統一できる点はよいが、Xeon Phiが大量のCPUを積んでいるといっても、GPUに比べると並列度はイマイチ、アクセラレーターとしてはインパクトが弱いということなんだと思う。
スーパーコンピュータ分野であるだけに、かなり吹っ飛んだ性能を出すつもりの製品に違いない。長年、GPUの弱さを指摘され続けてきたIntelだが、コンシューマー向けの内蔵GPUという縛りを離れ、スーパーコンピュータ向けに最初から設計するとなれば、当然Tesla系を上回るものを出してくるだろう。NVIDIAに切り返せる絶好の機会と捉えているのでないか。そこには「advanced packaging technology(先進的なパッケージ技術)」という記述もあるから、必要なメモリバンド幅を確保するための手段も含まれるに違いない。一方、スーパーコンピュータにも進出してきたArmの目の前に爆弾として落とす効果も期待できる。
ここから先のGPU話は、Intelは何も言っていないので、筆者の妄想話だと断っておく。コンシューマー向けCPUでは、長らくGPUをCPUと集積してきたIntelだが、このGPGPUがうまくいったならば、これをダウンサイズする形でディスクリートGPUにしてNVIDIAの主力機種にぶつけるという線もありだと思う。やられるばかりじゃ能がない、やり返すと(倍返し?)。その場合には、CPUはGPU内蔵なしの機種の方が座りよい。まぁ、肝心の一発目のGPGPUがスーパーコンピュータやデータセンターで成功を収めなければ駄目だけれど。
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。
「頭脳放談」
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