「参入したら決して逃げない」――エンジニアの誇りを持ち続けるCEOのこだわりGo AbekawaのGo Global!〜Michael Schumacher編(後編)(2/2 ページ)

» 2019年06月06日 05時00分 公開
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バグフィックス後の対応が信頼関係を決める

阿部川 シューマッハさんにとって、仕事の魅力とは何ですか?

シューマッハ氏 難しい問題を解決することです。「最初は全てが不可能だった」という言葉があります。最初、人間は飛べませんでした。人間は馬より早く走れませんでした。夜の暗闇の中で本を読めませんでした。全ての物事は、最初は不可能なのです。

 私の仕事は、朝起きて、不可能と思われている問題を、素晴らしい仲間と解決することなのです。これ以上素晴らしい仕事があるでしょうか! その上顧客は私にお金を払ってくれるのですから(笑)

阿部川 あなたが楽しんでしている仕事が、顧客からしっかり評価されている証拠ですよね(笑)

シューマッハ氏 私たちは顧客に何かを売っているのでありません。私たちが彼らの不可能な問題を解決するから、顧客はそれを買ってくれているのです。

 もちろん、ソフトウェアですからバグはあり得ます。エンジニアにとっては単なるバグかもしれませんが、顧客にとっては大きな問題です。バグフィックスの後、どのように顧客に説明し、対応するかがとても重要なのです。誠実なこと、責任を持って対処することです。問題が起こったときにどのように対応するかで、顧客との信頼関係は決まります。

学ぶことそのものが人生を楽しいものにしてくれる

阿部川 若い技術者に対して、これからの20年を見据えてアドバイスをお願いします。

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シューマッハ氏 幾つになっても新しいことは学べます。学ぶことそのことが人生を楽しいものにしてくれますから。それを前提に、まずは、自分の好きなことをやってください。人生は長いようで短い。好きなことをやらないといけません。

 2つ目に、これは私がそうなりたいと思ってやってきていることですが、世の中に不可能なことは一つもありません。そして成功するかしないかは、あなたがどのような人々を選ぶかにかかっています。エンジニアリングやプログラミングにかかわらず、企業での仕事であれば、どんな人と仕事をするのかがとても重要です。

 偉そうに言っていますが、私もたくさんの間違いをしてきました。そのたびに学び、少しは賢くなってきたと思います(笑)。毎日、死ぬまで何か新しいことを学ぶことはできるものです。だから人生は楽しいのですよ。

阿部川 エンジニアリングの世界には、まだまだ解決しなければならない困難な問題がたくさんあるとは思いますが、どうやったら、市場に顕在していないそのような問題を、探し当てることができるのでしょうか?

シューマッハ氏 テレビットのときに、当時のモデムの大きさはこれぐらいで、(といって手まねで、どれほど大きいかを示し)それを私たちは、2インチ四方の箱に収めることに成功しました。それはまさに驚くべきエンジニアの技です。

 見た人は「こんなに小さな箱が本当にモデムなの?」とびっくりしました。しかしその次にこう言ったのです。「でも誰もこのモデムを買わないだろうな。だって大きすぎて、出張に持ってはいけない。しかもこの形状だと積み上げることもできない」。当時のエンジニアの技術をつぎ込んだものにもかかわらず、顧客の問題を全く解決することはできない代物だったのです。

 どんなに素晴らしい製品でも、顧客の問題を解決できなければ意味がありません。それが解決できるからこそその製品やサービスが長期にわたってひいきにされるのです。問題を解決するとはそういうことでした。ですからとにかく顧客が直面している問題を聞くのです。

 私が考える一番の顧客というのは、悪いところを素直に言ってくれる顧客なのです。私が会議から出ていった後ではなく、そのことを会議中に言ってくれる顧客が、ベストフレンドだと思っています。

Go's thinking aloud――インタビューを終えて――

 ミシガン州生まれの、明るく活発で、スポーツ好きだった男の子は、夏の太陽を体いっぱいに受けて大きくなった。数学が得意だった彼は、真っすぐに自分の好きなことを追求し、やがて大学でコンピュータエンジニアリングを修める青年へと成長する。好きなことが仕事になることに、何の迷いもなかった。その時以来今まで、実はずっと自分は一介のエンジニアだと豪語する。

 競合がいないことは「ラッキー」ではない。スタートアップ企業の戦略にとっては「必須事項」だ。シューマッハ氏は、好きなことができたのは「ラッキー」と表現するが、それは競合他社がいない市場を見いだし、そこへ適切な製品を投入し、継続的に成長させてきた、エンジニアとしての技術への揺るぎない自信と、経営者としてのビジネスへの駆け引きのしたたかさだ。

 大きな声で大いに語り、そして大きな声でよく笑う。中西部のエンジニアリングオタクは、その後世界12カ国にオフィスを有する、グローバルなソフトウェア会社のCEOとなった。社員と市場に強くコミットする姿勢は、頼りがいのあるまさに「Big Daddy」だ。参入したら決して逃げない。技術としたたかさの上に、チームに対する信念が積み上げられる。2019年、この企業はどんな不可能に、可能をもたらしてくれるだろう。

阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)

アイティメディア グローバルビジネス担当シニアヴァイスプレジデント兼エグゼクティブプロデューサー、ライター、レポーター

コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳なども行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在は英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行うほか、作家として執筆、翻訳も行っている。

編集部から

「Go Global!」では、インタビューを受けてくださる方を募集しています。海外に本社を持つ法人のCEOやCTOなどマネジメントの方が来日される際は、ぜひご一報ください。取材の確約はいたしかねますが、インタビュー候補として検討させていただきます。

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