まず、企業間の契約について解説します。
「請負」「派遣」「SES(準委任)」の特徴については、IT訴訟解説58「SESで働いているけど、客先から直接指示を受けています。これって違法ですか?」に詳しいので、再掲します。
請負契約は、受注者は発注者の望む「成果物の完成」を求められる。
一方、その作業方法や人員、作業時間など、完成に至る「方法」は、受注者の裁量に任される。例えば、洋服をオーダーメイドで作成する場合、客は、期日までに注文したものが、見積もり通りの価格で出来上がっていれば、誰が、いつ、どのような作業方法で服を作ったかについて関知しないし、できない。契約書で約束した「モノ」とその「数量」がそろっていればいいのだ。
請負契約には、通常「瑕疵(かし)担保責任」が付けられる。いったん納品した成果物であっても、受け取り時点では気付かなかった欠陥(ソフトウェアにおいてはバグなど)に発注者が後で気付いた場合、民法の定めでは「納品後1年以内であれば、無償で修補を求める」ことができる。
請負と全く逆の性質を持つのが派遣契約だ。顧客が買うのは、派遣される要員の「労働力」であり、働く「時間」によって金額が決まる。「1時間当たり1000円の労働力を月に160時間買うから、16万円支払う」という契約だ。
派遣されたメンバーは、派遣先の指揮命令、作業管理の下、作業を行う。どのような作業を、どのように実行するのかも、派遣先の指示に従って行う。
請負と違って、その成果物に責任は負わない。(実際の運用においては微妙なところだが)作ったソフトウェアにバグが残存して使い物にならなかったとしても、定められた時間、真摯(しんし)に作業に取り組んでいれば、その責任を派遣されたメンバーが負うことはない。
近頃よく耳にするSESは「準委任契約」に分類される。
本来、発注者が自身で行うべきITに関する作業を、一定の能力を持った要員が「代わりにやってあげる」という解釈が妥当かと思う。
「客先で作業を行うのが一般的」という点は派遣とよく似ている。異なるのは、その「指揮命令系統」だ。
発注者は直接、受注者のメンバーに指示を行うことはできないし、勤怠管理を行うこともできない。それらは受注者の責任者を通して行わなければならない。
受注者が成果物の完成に責任を持つことはない。作業の手段などは受注者に任され、代わりに受注者は報告書を提出する。
それぞれの特徴を表にまとめよう。
形態 | 提供するサービス | 手段 | 指揮命令/勤怠管理 | 備考 |
---|---|---|---|---|
請負 | 成果物 | 受注者の裁量に任せる | 受注者 | 瑕疵担保責任あり |
派遣 | 労働力 | 発注者の指示に従う | 発注者 | 成果物に責任を負わない |
SES(準委任) | 労働力 | 受注者の裁量に任せる | 受注者 | 報告書を提出する |
※IT訴訟解説58「SESで働いているけど、客先から直接指示を受けています。これって違法ですか?」より再掲
複数の契約が混在している現場で起こりがちなのが「偽装請負」問題です。
請負、準委任契約の企業の社員は、ユーザー企業や上位レイヤーの企業から直接指揮命令を受けることはできません。必ず、自社の現場責任者からの指揮命令の下で業務を遂行する必要があります。自社外の人間から指揮命令を受けて業務を遂行すると、偽装請負となります。
作業に関わる指示だけではなく、始業時刻、終業時刻などの労務管理も、自社の責任者以外の人間が行うと偽装請負になります。
偽装請負の問題点については、連載第1回「IT業界の仕組みと偽装請負の闇を分かりやすく解説しよう」もご参照ください。
なお、労働者派遣契約の場合は、指揮命令、労務管理、全て派遣先企業が行います。
システム開発プロジェクトに参加している皆さんは、ご自身(の所属会社)が、どの契約形態で入場しているか、ご存じでしょうか?
さすがにご自身の契約はご存じだと思う(思いたい)のですが、盲点なのは、プロジェクトをたばねるプロジェクトマネジャー(PM)やPMの指示の下、チームメンバーをリードするプロジェクトリーダー(PL)は、外注がどんな契約形態で参画しているのかあまり知らないことが多い、ということです。
PMやPLは、プロジェクトの成果を最大限にすることに集中しているので、皆さんがどんな契約形態で参画しているのかをあまり意識していないことがあります。そうすると、派遣も準委任も区別なく、直接指揮命令してしまいがちです。
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