続いて登壇した、真壁氏はまず、「マイクロサービス基盤の勘所」として、同社による「マイクロサービスリファレンスアーキテクチャ」を示しながら、ユーザーが現状のマイクロサービス基盤に期待する機能として「ゲートウェイ」「アンバサダー」「サイドカー」の3つを挙げた。ゲートウェイは、マイクロサービスの利用に当たって「認証」などの共通機能を集約するもの。アンバサダーは、マイクロサービス群の監視やロギングを行う機能。サイドカーは、アプリケーションに共通する機能をカプセル化するためのヘルパーとして働く。
真壁氏は、各要素について「ゲートウェイは成熟期にある一方、サイドカーやアンバサダーについては選択肢も多く、発展途上にあるため、現状で、1つの基盤技術に縛られるのは避けた方がよい」とした。加えて、多数のマイクロサービス群を「サービスメッシュ」として運用管理する技術については「有望だが過渡期にあり、現状では、そのための労力やリスクが高くなり過ぎる傾向がある」とした。
その上で、Microsoft Azureでは、成熟した「フロントエンド」の技術でまずは入り口を強固に固め、その背後にあるサービス群については、必要性や状況の変化に応じて、柔軟に追加、置換が可能な形にしておくのが「鉄板」だとした。
また、岡氏が今後の方針として述べた「マルチクラウド化」について、真壁氏はベンダーの立場から「ベンダーとしては、自社のクラウドを使ってほしいと考えているが、ユーザーの視点に立てば、複数ベンダーのクラウドを並行利用していきたいというのは自然なニーズ。論点は、インタフェースとそれを利用する数をどれだけ減らし、マルチクラウド運用の手間とコストを下げられるかにある」とした。
真壁氏は「標準化」と「差別化」がクラウドベンダー戦略の両輪であり、そのバランスや力点によってベンダーごとのクラウドに特色が表れるとしつつ、「ユーザーからのオープンソースソフトウェア(OSS)に対するニーズが非常に高い」ことから、市場で利用してもらうための「土俵に上がる」ためには、OSSへの注力、標準化への注力は必須であるとした。
そうした状況を踏まえて、Microsoftでは「オープンなコミュニティーの中で作っていく」ことと「OSSでインタフェースを抽象化していく」という2つのアプローチに注力しているという。
同社では、前出のサービスメッシュのAPIを標準化するプロジェクトにも参画している。真壁氏は「実装先行で混乱気味にあるService Mesh Interfaceについては、まずはオープンなコミュニティー上でAPIの標準化を行うことが急務。その上で、実装やそれ以外の付加価値で各ベンダーが競争をすればいい」との考えを示した。
また、Observability標準化の取り組みとしては、「OpenCensus」「OpenTelemetry」「Telegraf」「Prometheus」といったOSSの仕様がエコシステムを形成しつつあり、今後、クラウド間の仕様が共通化され、インタフェースが提供されることで、インストルメント化やメトリックのエクスポートを共通化できる方向性にあることを紹介した。
最後に、両氏は次のように述べてセッションを締めくくった。
「ベンダーとしての立場はともかく、個人的にはユーザーによるマルチクラウド化の流れは歓迎すべきことだと考えている。その中で、Microsoftはオープンなコミュニティーの中で必要な技術や仕様を作り、簡単につなげられるようにすることに注力している。OSSでは『コードを書く』ことだけが貢献になると思っているユーザーも多いかもしれないが、『ユーザーがそれらをどのように使おうとしているのか、使っているのか』についての『経験』を共有することも、大きな貢献になる。ベンダーだけではなくユーザーもオープンな場に出てくることで、クラウドネイティブがより盛り上がっていく」(真壁氏)
「ZOZOTOWNは、これまでシステムについて比較的クローズドなスタンスを採ってきたが、クラウドネイティブへと踏み出す契機に、よりオープンにしていきたいと考えている。クラウドベンダーだけではなく、他のユーザーとも積極的に情報共有、情報交換をしていきたい」(岡氏)
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