「高橋社長はこれまでと違う路線を打ち出してラ・マルシェをV字回復させてくれるんじゃないかって、食品業界も期待してたんです。でもこれまでの打ち手は、そこそこ成功しているが迫力に欠けるってのがわれわれの見方でしてね。早くも社長交代の動きが……なんて声も聞くもんですから」
「まさか……」
小塚の話からは、社長交代などという大事に至るような気配は感じない。ラ・マルシェの重役たちはどちらかといえば守りに入っており、とてもクーデターを起こすような人間は見当たらないはずだった。
「いや、私もね。ラ・マルシェさんは、どちらかというとおとなしい人が多くて、だからこそ高橋さんのような改革は今までできなかったんだろうと思うんです。社長を引きずり下ろそうなんて方がいるとはね、今でも思っちゃいなんです。しかし業界内にそんなウワサがあるにはありまして……」
思わぬ情報に美咲は考えた。
(オンラインショップの成否が、重要なカギになるのかもしれないわね……)
「で、どうなんだ?」
会社に戻った美咲に、同僚の白瀬が尋ねた。
「何が?」
「ラ・マルシェ。いいベンダー見つかりそうか?」
「IT業界は慢性的な人手不足。私が推薦できるベンダーはどこもタイミングが悪くて、半年後だったらとか、もう少し前だったら受けられたのにとか、そんな答えばかりなのよ」
美咲は口を少しとがらせた。
「そうか。やっぱり、小塚さんが探すしかないのか……」
「海外のベンダーなら、空いているところが見つかるかもしれないけれど……」
「見つかったって?」
電話から聞こえる小塚の大きな声に、羽生は受話器を耳から少し離した。
「ああ。大連にある社員数30人ほどの小さな会社だが、これまでECサイトを幾つも手掛けて成功している」
「大連……て、中国の会社か?」
「日本にも法人を置いていて、顧客対応は全て日本人だ。心配ないよ」
羽生のゆっくりとした口調が、小塚を安心させた。
「そうか。羽生が選んでくれた会社なら、間違いない。早速会いたいな」
「夕方、日本法人の社長があいさつに来る。小塚も同席してくれよ」
「分かった。何をおいても行くよ。いやあ、本当に助かった。ありがとう!」
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