初老の男が差し出した名刺には、「ルッツ・コミュニケーションズ 日本支社長 本田修三」と書かれていた。
「わが社のプロジェクトには、何人ぐらい投入できますか?」
小塚の問いに、男は柔和な笑みを浮かべながら「7人ほど。さらに要件を詰めていく日本の技術者も2人参加できます」と答えた。落ち着いた物腰だった。
「合わせて9人……そんなもんなのか?」
小塚が羽生の方を向いた。
「この規模なら十分だろう」
本田はルッツの会社概要を説明してからPCを取り出し、自社が日本の流通業向けに手掛けたというWebサイトを幾つか見せた。いずれもセンス良く使い勝手も良さそうなものばかりだった。
「有名デパートのオンラインショップを作った実績があるんですね。うん、これはいい!」
小塚はほおを紅潮させた。その後、具体的なスケジュールなどを話し、キックオフミーティングの日付を決めてから、本田は帰っていった。
「羽生、本当にありがとう!」
「たまたま前の開発が終わって手が空いている時期だったらしい。ラッキーだな」
「早速、発注だ」
「そうだな。ただ、わが社との契約は初めてだから、一応審査をして取引先登録をしなくちゃならないな」
「……うーん、そういうのは俺、苦手なんだよなあ。そうだ、乗りかかった船ということで、これも情シスでやってくれないか?」
「えっ?」
羽生が少し眉をひそめた。情シスに契約周りだけ押し付けるなんて、あまりにもずうずうしいと思ったのだ。
「頼むよ。俺がITの発注なんて分からないこと、知ってるだろう? 開発に入ったら、EUC(End User Computing)っていうんだっけ? 営業で全部巻き取って、情シスには迷惑かけないようにするからさ」
羽生はため息をついた。小塚がこうした依頼をするのはこれが初めてではない。そして、いくら断っても、結局は仕事を押し付けてくることも。
「分かったよ。仕方ない、とにかく契約まではやってやる」
「ありがとう。いやあ、本当に助かるよ」
小塚はそう言うと、意気揚々と自分の部署に戻っていった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.