「真のP2Pを実現した完全な水平分散型社会」を目指すNeukindの未来は、Libraか? Winnyか?ものになるモノ、ならないモノ(84)(2/2 ページ)

» 2019年11月15日 05時00分 公開
[山崎潤一郎@IT]
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「1人に1ノード」の未来とは?

 現在、仮想通貨以外でのブロックチェーン活用に熱い視線が注がれている。例えば、既存金融システム、流通管理、IoT機器管理などだ。中には、ソニー・ミュージックエンタテインメントの「著作権処理に利用」というユースケースもある。ただ、その多くは、既存のインフラ、システム、考え方の中にブロックチェーンの「機能」を組み入れようというもの。非中央集権、分散化とはいうものの、早い話がブロックチェーンの良いとこ取りをした「プラットフォーム」を構築し、セキュリティを高め事業のコストを下げようという話に終始している。プラットフォームが維持されるという意味では、何も変わらないわけだ。

 Neukindでは、このような「プラットフォーム」から脱却した、完全な分散型社会を実現するためのビジネスモデルを模索している。その手段が「ブロックチェーン」というわけだ。分散型社会では、「ブロックチェーンがコモディティ化し、社会のあらゆるレイヤー、あらゆる箇所に遍在する」(渡邉氏)とのこと。いろいろな機能や役割を有したブロックチェーンがインターネット上に多数存在するようなイメージであろう。

 そして各戸や個人、組織などが所有するノードが、必要な役割を提供するブロックチェーンに接続することで、Peer to Peer(P2P)で情報のやりとりを行う。つまり、そこには現在考えられているような、「ブロックチェーンを用いたプラットフォーム(インフラ)」に端末がぶら下がる世界ではなく、各個人の端末がブロックチェーンのノードとして機能する真のP2Pを実現した完全な水平分散型社会がある。

手数料、中間マージン、製品価格への上乗せがなくなる世界とは?

 1994年当時、ビル・ゲイツ氏が「Banking is necessary, but banks are not.」と語ったという。インターネット創世記に現在のFinTechを予見するような「銀行機能さえあれば、銀行は不要」発言は、さすがというべきだが、Neukindのビジョンは、この言葉に凝縮されているのではないだろうか。

 銀行機能を有した真のブロックチェーンがあったとしよう。各家庭や組織に設置されたノード同士が仮想通貨で価値の保存や資金移動を行えば、少なくとも「決済」「貯蓄」「資産運用」といった既存銀行機能の多くの部分は、現状の銀行インフラに依存する必要はなくなる。

 資金移動だけではない。例えば、物流。世界のコーヒー農家が参加するブロックチェーンがあったとしよう。コーヒー農家が設置したノードから得られるコーヒー豆に関する各種の情報(育成状況、収穫期、価格など)と、購入者側が自分のノード上に保存、提示した購入条件がマッチングすれば、現地バイヤー、輸入商社、卸業者、小売流通などの既存のサプライチェーンを介すことなく農家から直接、豆を送付してもらうことも可能だ。

 これは、いうなれば「テラ銭レス社会」といったところだ。銀行にしても、サプライチェーンにしても、既存のプラットフォームを利用する限りは、手数料、中間マージン、製品価格への上乗せ、といった形で、あらゆるサービスの対価として、プラットフォーマーに「テラ銭」を上納し続けなければならない。だが、完全な分散型社会であれば、生産者から消費者、消費者から消費者など、まさにP2Pでの資金移動が可能になる。

展示会で見たアート作品がオフィスに飾られている。「手数料や中間マージンがなくなった社会では、リアルなイベントを行ったり、アートのような一点ものを創り出したりするような、共感型のビジネスモデルを模索する必要がある」(渡邉氏)

エンジェル投資家の大石哲之氏が出資

 それにしてもだ、ビジョンがあまりにも先進的過ぎて、筆者には未来社会を書いたSF小説にしか思えない。渡邉氏は「起業を考えたときに、日本というマーケットではなく、グローバルに通用するビジネスモデルの構築を考えた結果だ」と話す。それだけに現在10人程度いるスタッフのうち、日本人は2人だけで、残りは海外に点在している。

 社内コミュニケーションは全て英語で、つい先日も元Googleのエンジニアが合流したそうだ。元Googleというだけでエンジニア獲得のシリコンバレーでの相場は年収2000万円だそうだが、「そんな報酬は支払えない、と言ったら、面白そうだからそれでもOK、と来てくれた」と渡邉氏は笑う。

 どう考えてもキャッフローが回っているようには見えない同社だが、この事業に出資して彼らのビジョンを支えている投資家が存在する。仮想通貨界では有名なエンジェル投資家の大石哲之氏もその一人だ。起業家と投資家をつなぐコミュニティー「ANGEL PORT」の大石哲之氏のページには、Neukindに投資していることが明記されている。

 ただ、一般的なベンチャーキャピタル(VC)からの投資は難しいようだ。「われわれの話を理解してくれるVCがいない」(渡邉氏)という。筆者は、VCの投資判断を論ずるだけの知識を持ち合わせてはいないので、なんともコメントしづらいが、Googleの元エンジニアが合流したり、大物投資家が出資したりすることに驚くとともに、狭量な思考に彼らのビジョンを閉じ込め、SF物語として決めつけるのは早計に過ぎる思いもある。

 ちなみに、冒頭で紹介したステーキング用のNeuNode端末は、同社のビジョンを具現化し理解してもらうための一手段だそうだ。この他にも短期的なキャッシュフロー施策としてブロックチェーン上にポイントシステムを構築するためのサービスを提供するという。

幾つかのバリエーションも存在するNeuNode。電源を入れネットワークに接続して簡単な設定を行うだけで使えるにしたいという

LibraやWinnyと同じ方向を目指している?

 Neukindの目指す方向性について、考えていたら、Facebookの「Libra」や金子勇氏の「Winny」を思い出した。

 Neukindのビジョンは、Libraの理念に似ている。既存のプラットフォームの外側に独自の分散化された仕組みを構築しようとしている点では、Libraと同類ではないか。特に、Libra協会が5年後に予定している「Libra Blockchain」のオープン化が実施されれば、Neukindの目指す分散型社会の具体例が登場することになる。

 Libraは、ご存じのように世界各国の金融規制当局を敵に回しフルボッコ状態で、当初計画していた2020年前半のサービススタートが危ぶまれている。体制側からすれば、「国際送金への影響」「通貨発行益」などの既得権を犯しかねない存在だけに今のうちに骨抜きにしておく必要があるのだろう。

 もう一点、完璧なP2Pを実現という意味において、Winnyを思い出す。Napsterのような、それまでのP2Pは、クライアントを管理する中央サーバが必要だったが、Winnyは完全なP2Pを実現した。Winnyの歴史をあらためて語る必要はないだろう。PCからの情報の流出事件が相次ぎ、権力の手によって葬られてしまった。

 Winnyの場合は、脱法行為が相次いだことで、つぶされてしまったわけだが、「1人に1ノード」の時代にも同じ轍(てつ)を踏むことにならないか。渡邉氏は、「分散型社会では、脱法的な行為が横行する社会にはならない」と語る。

 理由はこうだ。「P2Pとして直接個人同士が結び付くことで、スマートコントラクトによって、納税やサービスへの対価の支払いなどが自動化され意識する必要すらなくなる」(渡邉氏)。そうなると「脱税、マネーロンダリングなどの不正を行うコストよりも、法律を守るコストの方が低くなる社会が実現する」(渡邉氏)というのだ。

 かつて違法ダウンロードが横行した音楽配信において、「Spotify」などのストリーミングサービスの登場で違法行為が減少した歴史がある。これなどは、不正を行うより、ストリーミングサービスを利用する方がコストが安くなったことが要因の一つとして挙げられる。スマートコントラクトにより、あらゆる部分でそれと同じメカニズムが働くようになるという。

 Libra(オープン化後)もWinnyも、手法は違えど、既存のプラットフォームに頼らない分散型社会の実現を目指そうという点では、Neukindと同類のように思える。筆者として心配なのは、Neukindのビジネスモデルが具現化されたとき、「既存の仕組みを脅かすもの」として、体制側の圧力によりつぶされてしまうことだ。

 まっ、逆に考えると、体制側に葬られるほどにビッグになってこそ、本物だといえるわけだが……。

著者紹介

山崎潤一郎

音楽制作業の傍らIT分野のライターとしても活動。クラシックやワールドミュージックといったジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレーベル主宰。ITライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブといった大手出版社から多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」などの開発者であると同時に演奏者でもあり、楽器アプリ奏者としてテレビ出演の経験もある。音楽趣味はプログレ。

TwitterID: yamasaki9999


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