オンラインショップ開発頓挫の裏には、経営陣の覇権争いがあった! 老舗スーパーマーケットチェーンを舞台にした、システムと人間のトラブル模様を描く「コンサルは見た! Season4」、いよいよ全ての謎が解き明かされる――。
連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。
都内に十数店舗を展開する、創業50年の高級スーパーマーケットチェーン
大手コンサルティングファーム
老舗スーパーマーケットチェーン「ラ・マルシェ」は、情報システム部が企画した「AI在庫管理システム」と、営業部門のEUC企画「スマホ・デ・マルシェ」(オンラインショップ)の2大IT施策に社運をかけていた。
順調に開発が進む在庫管理システムとは裏腹に、契約手続きの遅延を理由にベンダーから開発撤退され違約金を請求されたオンラインショップ。その失態を理由に、現社長の退任を迫る前社長。
役員会議に乗り込んだITコンサルタントの江里口美咲は、腹心の部下を後任に据えようとした前社長の提案に「待った」をかけ、オンラインショップ開発の頓挫は仕組まれたものであり、実行犯は後任候補として挙げられた村上常務であることを暴く。
美咲はさらに、真実を知っているであろう羽生に説明を求める。
羽生は立ち尽くしていた。
眼球が大きく左右に揺れていることは、誰の目にもはっきり見てとれた。黙り込んだまま何も言わない羽生に、小塚が「羽生、大丈夫か」と声を掛けた。会議室内にいる皆が、羽生の次の言葉を待って静まり返った。
「……最初は……こんなことだと、知らなかった」
口を開いた羽生に村上が目をむき、「羽生!」とわめいた。羽生はその声の大きさに一瞬口を閉じたが、意を決したように、また話し始めた。
「こ、小塚からベンダーを探してほしいと言われたとき、本当は、無理を言えば出入りの業者に頼むことはできた。……でも、私は、その……少し意地悪をしてやりたかった。同期入社なのに、出世していく小塚が……妬ましかった」
鈴木が大きく頭を振って下を向いた。
「自分は、システム部長でキャリアを終える。なのに……小塚は周りに迷惑を掛けながらもうまく立ち回って、今や取締役だ。新社長に出した企画が通れば、さらに上に行くかもしれない。能力なら、私だって負けていないはずなのに……」
「だから、少しだけ足を引っ張ってやろうと思ったのね?」と、美咲が低い声で尋ねた。羽入は黙ってうなずく。
「そう、少しだけだ。それで、しばらくしたらベンダーを紹介してやって……そう思っていたんだ。私はただ、小塚がちょっとだけ困って、わ、私に懇願でもしてくれれば、それで……満足だった」
「そこに、村上常務が話を持ち掛けたわけね?」
「はい……」
それを聞いて、村上が立ち上がった。
「わ、私は関係ない! これは羽生の独断で!」
そこに高橋の、こわばった声がかぶさった。
「だったらこの写真は、この名刺は何なんですか?」
皆の目が再び、スクリーンに映し出された村上の名刺に集まった。
羽生は続けた――「『いっそのこと、小塚の企画をつぶそう。ルッツ・コミュニケーションズというベンダーがある。そこの日本支社長は話が分かる男だから、協力してくれる』と村上常務は話しました。常務が契約締結を引っ張ってもめ事を作り、小塚と企画を通した高橋社長に失点を付ける。大連のルッツには画面だけを作らせ、ラ・マルシェには中身まで作ったように見せ掛けよう、と」
「全てはたくらみだったわけね」
「はい。大連に払うのは4000万円、マルシェには1億6000万円を要求して、差額の1億2000万円は、本田支社長と常務とで山分けしよう、と……」
「何だって?」「犯罪じゃないか!」――会議室内に次々と怒号が湧き起こった。
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