1億2000万円を着服しようとしたのは誰だ!――仁義なき戦い 大連謀略編コンサルは見た! 情シスの逆襲(最終回)(1/3 ページ)

オンラインショップ開発頓挫の裏には、経営陣の覇権争いがあった! 老舗スーパーマーケットチェーンを舞台にした、システムと人間のトラブル模様を描く「コンサルは見た! Season4」、いよいよ全ての謎が解き明かされる――。

» 2019年12月19日 05時00分 公開
コンサルは見た!

連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。



登場人物

ラ・マルシェ

都内に十数店舗を展開する、創業50年の高級スーパーマーケットチェーン

takahashi

高橋雄介

代表取締役社長。ラ・マルシェの経営不振を立て直すために株主たちがメインバンクから招いた。さまざまな施策を行っているが、まだ目に見える効果は出せておらず、前社長の鈴木から退任を迫られている

suzuki

鈴木浩美

創業社長の息子、二代目社長(だった)。復権を狙っており、役員会議で高橋の退任、および腹心の部下 村上を時期社長に据えることを要求した


murakami

村上克典

総務担当常務取締役。次期社長に推薦された、鈴木の懐刀。だが役員会議の場で、現社長を失脚させるために、「スマホ・デ・マルシェ」の開発ベンダー「ルッツ・コミュニケーションズ」と裏取引をした事実を暴かれる

kozuka

小塚大地

取締役 兼 営業部部長。オンラインショップ「スマホ・デ・マルシェ」を発案し、EUCで開発を進めていたが、ベンダー「ルッツ・コミュニケーションズ」から突然、作業の中止とそれまでの開発費用1億6000万円を請求する内容証明を送り付けられ、窮地に陥っている

hanyuu

羽生孝志

情報システム部部長。小塚の同期。直属の上司 村上と共に、前社長の鈴木から後継者として推薦されたが、村上が手を染めた犯罪にもかかわっている様子


A&Dコンサルティング

大手コンサルティングファーム

misaki

江里口美咲

ITコンサルタント。凄腕系。ラ・マルシェの小塚と高橋現社長の相談を受けて、事件を調査。役員会議の場で、村上とベンダーとの裏取引の事実を暴く


sirase

白瀬智裕

「A&Dコンサルティング」に化粧品メーカーから出向中の新米コンサルタント。ラグビー部出身でガタイが良い


前回までのあらすじ

老舗スーパーマーケットチェーン「ラ・マルシェ」は、情報システム部が企画した「AI在庫管理システム」と、営業部門のEUC企画「スマホ・デ・マルシェ」(オンラインショップ)の2大IT施策に社運をかけていた。

順調に開発が進む在庫管理システムとは裏腹に、契約手続きの遅延を理由にベンダーから開発撤退され違約金を請求されたオンラインショップ。その失態を理由に、現社長の退任を迫る前社長。

役員会議に乗り込んだITコンサルタントの江里口美咲は、腹心の部下を後任に据えようとした前社長の提案に「待った」をかけ、オンラインショップ開発の頓挫は仕組まれたものであり、実行犯は後任候補として挙げられた村上常務であることを暴く。

美咲はさらに、真実を知っているであろう羽生に説明を求める。

羽生の告白

 羽生は立ち尽くしていた。

 眼球が大きく左右に揺れていることは、誰の目にもはっきり見てとれた。黙り込んだまま何も言わない羽生に、小塚が「羽生、大丈夫か」と声を掛けた。会議室内にいる皆が、羽生の次の言葉を待って静まり返った。

 「……最初は……こんなことだと、知らなかった」

 口を開いた羽生に村上が目をむき、「羽生!」とわめいた。羽生はその声の大きさに一瞬口を閉じたが、意を決したように、また話し始めた。

hanyuu

 「こ、小塚からベンダーを探してほしいと言われたとき、本当は、無理を言えば出入りの業者に頼むことはできた。……でも、私は、その……少し意地悪をしてやりたかった。同期入社なのに、出世していく小塚が……妬ましかった」

 鈴木が大きく頭を振って下を向いた。

 「自分は、システム部長でキャリアを終える。なのに……小塚は周りに迷惑を掛けながらもうまく立ち回って、今や取締役だ。新社長に出した企画が通れば、さらに上に行くかもしれない。能力なら、私だって負けていないはずなのに……」

 「だから、少しだけ足を引っ張ってやろうと思ったのね?」と、美咲が低い声で尋ねた。羽入は黙ってうなずく。

 「そう、少しだけだ。それで、しばらくしたらベンダーを紹介してやって……そう思っていたんだ。私はただ、小塚がちょっとだけ困って、わ、私に懇願でもしてくれれば、それで……満足だった」

misaki

 「そこに、村上常務が話を持ち掛けたわけね?」

 「はい……」

 それを聞いて、村上が立ち上がった。

 「わ、私は関係ない! これは羽生の独断で!」

 そこに高橋の、こわばった声がかぶさった。

takahashi

 「だったらこの写真は、この名刺は何なんですか?」

 皆の目が再び、スクリーンに映し出された村上の名刺に集まった。

 羽生は続けた――「『いっそのこと、小塚の企画をつぶそう。ルッツ・コミュニケーションズというベンダーがある。そこの日本支社長は話が分かる男だから、協力してくれる』と村上常務は話しました。常務が契約締結を引っ張ってもめ事を作り、小塚と企画を通した高橋社長に失点を付ける。大連のルッツには画面だけを作らせ、ラ・マルシェには中身まで作ったように見せ掛けよう、と」

 「全てはたくらみだったわけね」

 「はい。大連に払うのは4000万円、マルシェには1億6000万円を要求して、差額の1億2000万円は、本田支社長と常務とで山分けしよう、と……」

 「何だって?」「犯罪じゃないか!」――会議室内に次々と怒号が湧き起こった。

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