ではこんなとき、現場のエンジニアはどのように振る舞うべきなのでしょうか。どうしたら自分のキャリアと健康を守れるのでしょうか。
前提として必要なことは、例えエンジニアであっても請負、準委任、派遣についての責任と権利を知っておくことです。概要は、連載第3回「システム開発プロジェクトに存在する複数種類の契約形態」が参考になります。
請負であればエンジニアの役割は専ら「納期通りに品質の良い成果物を納める」ことであって、成果物につながらない作業を強いられることはありません。また、自分ができない作業を他のメンバーに頼んでもいいし、常駐していても、出勤や退出時間を顧客にとやかく言われることはありません。「明日までに、この資料を作ってくれない?」「ちゃんと朝来てくれないと困るよ」などと言えるのは自社のリーダーだけであって、お客さまの担当者がこれらをベンダーの担当者に指図することはありません。
準委任であれば、「約束された時間きっちりと働く」ことがメインで、成果物の完成責任はありません。モノができないからといって過度な残業を強いられることはないわけです。これは派遣でも同じです。
こうしたことを知り、契約形態に合わない作業を強いられたら上司や営業を通してお客さまに是正してもらう必要があります。
改善されずに放置されるのは、上司や営業が見て見ぬフリをしているというよりは、悲惨な現状を知らないという場合の方が多いはずです。私が現場に入ってやった程度のことは、皆さんの上司や営業担当者でもやってくれるはずです。おかしいと感じたら、苦しむ前に早急に相談すべきでしょう。もしそうしたことをやってくれない上司や営業なら、それこそ異動や転職を考えた方が、自身の健康とキャリアのためかもしれません。
もう1つアドバイスをすると、「お客さまが望むのは何かを知り、それに応じた約束事をする」ということです。
契約の形態が準委任でも、お客さまが望むものが仕事の完成にあるのなら、不具合も含めてこちらで頑張るから、作業指示や成果物作成に関係しない作業はご遠慮願いたいし、出社/退社も含めて作業時間の管理もしないでほしい。また要件が変わるなら計画もそれに応じて変えざるを得ないとハッキリ申し出るべきでしょう。
これらは本来なら、プロジェクト計画策定時か商談中に行うべきですが、最悪プロジェクト実施中でも申し出る権利はあります。
無論、個人で言いにくければ、プロジェクト内で話し合い、上司から言ってもらうべきでしょう。
実態が準委任であれば、「言われたことはやるが残業はしない」と申し出ておくべきです。受注者の立場ではなかなか言い出しにくいことかもしれませんが、エンジニアが自分の身を守るために、どうしても必要な「度胸」だと私は思います。お客さまも社会人ですから、自分勝手な理不尽だけがまかり通るとは考えてはいないでしょう。
契約書にどう書いてあるかは別にして、本当にお客さまの望むモノを理解して、作業を計画し、お客さまと握る――契約書を軽視するわけではありませんが、準委任か請負かを営業担当者やマネジャー層が決めるときに、どこまでプロジェクトの危険やエンジニアの苦労をくみ取っているかといえば、そこまでしっかりと考えている例はまれでしょう。
であれば、現場は現場でさまざまなローカルルールを作るしかありません。契約書と実体の結び付けは、正直、後で何とかなるものです。いえ、本来なら請負とすべきところを準委任契約にしてしまうような上司、営業担当なら、それくらいの苦労はしてもらいましょう。
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