企業がデジタルトランスフォーメーションを成功させるには、明確なデジタルビジョンを確立し、ビジネスの優先課題に重点を置き、従業員に対しては変革を強調し過ぎず、共感と信頼を得ることが肝要だと再認識すべきだ。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
ある大手通信会社がサービスとビジネスプロセスのデジタル化を迫られているが、取り組みが足踏みしている。5人の経営陣がいずれも、自身がデジタルトランスフォーメーションに主な責任を負っていると考え、その実現方法について意見が分かれていることが大きな問題となっている。
「デジタルトランスフォーメーションは、全社共通の理解と明確なビジョンを持っていなければ成功しないだろう」と、Gartnerのアナリストでディスティングイッシュトバイスプレジデントのニール・オズモンド(Neil Osmond)氏は語る。
「人々はデジタルトランスフォーメーションについて考えるとき、人工知能(AI)やチャットbot、自動化といった技術を強調する傾向がある。これらが最も思い浮かぶ要素だからだ」と、オズモンド氏は指摘する。
「だが、技術的な問題は通常、取り組みやすい事柄だ。ところが、非技術的な側面は対処しないと、組織に必要なトランスフォーメーションの深さを覆い隠してしまい、トランスフォーメーションの重大な阻害要因になる場合がある」(オズモンド氏)
オズモンド氏は、デジタルトランスフォーメーションを実現する上での最も一般的な課題として、明確なデジタルビジョンの欠如、技術の過度な偏重、変革への消極的抵抗を挙げている。
ビジョンが共有されていないと、デジタルトランスフォーメーションは行き詰まってしまう。意味のある分かりやすいビジョンだけが行動につながる。次の2つの例を比べてみよう。
この文は簡潔だが一般的であいまいであり、人々がこれを支持して行動を起こしにくい。
デジタルビジョンとして、この2番目の例の方が優れている。「○○から▲▲へ」という表現を使って、目指す目標と理由を説明しているからだ。
真のデジタルトランスフォーメーションには、デジタル対応に向けた現行ビジネスの最適化(生産性の向上、商品の改良、顧客体験の改善)に加えて、ビジネスの変革(商品やサービス、モデルなどの新しいビジネスの創造)が含まれる。デジタルトランスフォーメーションを行う際は、何を目指すのかが問われることになる。
デジタルトランスフォーメーションで真の変革を実現するには、売上成長や顧客満足、業務効率といったビジネスの優先課題に重点を置く必要がある。人とプロセスに関わる変革を包含した取り組みを進めなければならない。
「技術に関連する課題の解決をスローガンに掲げてはならない。もしそうするなら、デジタルトランスフォーメーションの取り組みが、非常に時間のかかるITモダナイゼーションプロジェクトに変化し、プロセスや仕事のやり方など、業務モデルの重要な要素が対象から外れてしまう」と、オズモンド氏は説明する。
「ビジネス成果は何か」を明確に理解し、ビジネスの優先課題を取り組みの中心に据えることを、デジタルトランスフォーメーションの出発点にしなければならない。
従業員は、トランスフォーメーションのメッセージやビジョンを耳にしているかもしれない。さらに、それらを素晴らしいとさえ考えるかもしれない。だが、日常業務に戻ると守りに入り、物事を変えるのはリスクだと思ってしまう。そうなると惰性に流れ、結局、取り組みは失敗する。
「毎日何度も変革が連呼されると、従業員は“トランスフォーメーション疲れ”に陥ってしまう。従業員が働くのは業務を処理するためであって、変革を行うためではない。変革を強制すると、従業員は嫌気が差してしまう」(オズモンド氏)
オズモンド氏は、デジタルトランスフォーメーションを円滑に進める方策として、以下を勧めている。
これらの方策により、従業員は確信と信頼を持ってデジタルトランスフォーメーションに取り組めるようになる。
出典:How to Revitalize a Stalled Digital Transformation(Smarter with Gartner)
Director, Public Relations
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