聴覚障がい者は誰かにタイピングサポートしてもらわないと会議に参加できないし、発言もちゅうちょしてしまう――そんな同僚の忖度(そんたく)を解消するために、アクセンチュアのエンジニアたちが立ち上がった。
さまざまなバックグラウンドを持つ人間が集まり、それぞれの力を発揮することで新しい価値が生まれる――ダイバーシティーの重要性をうたうだけならば簡単だが、実践している企業はどれだけあるだろうか。理想を理想で終わらせず、AIを中心としたテクノロジーを駆使してサポートし、さまざまな人のギャップを埋めていこうとする取り組みを「アクセンチュア」が進めている。
アクセンチュアは、さまざまな身体障がい、精神障がいのある人々、いわゆる「PwD」(Persons With Disabilities)の雇用に積極的に取り組んできた。日本オフィスでは現在、車椅子の人や視覚障がい、聴覚障がいを持つ社員がそれぞれの能力を生かして働いている。さらに、PwDのポテンシャルを発揮するためにテクノロジーの活用を進めている。
その一例が、聴覚障がい者をサポートする音声認識ツール「TransCommunicator」だ。アクセンチュアが提供するAIプラットフォーム「AI HUB」を生かして開発したサービスで、ミーティングやテレビ会議での会話の内容をリアルタイムに認識し、手元のPC上に表示する。発話内容を画面上に透過的に表示するため、資料を参照しながら同時にミーティングの流れを把握することも容易だ。
「アクションボタン」は、議論の流れの中で確認したくなったり、質問が必要になったりしたときに、ボタン1つで「質問があります」などの合成音声で呼び掛ける機能だ。聴覚障がい者も含めたチーム全体のインタラクティブなコミュニケーションを支援するユニークな機能だ。
感音性難聴を抱えながら、アクセンチュア テクノロジー コンサルティング本部 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービスグループでエンジニアとして働く室山拓也氏は、「これまでは主にタイピングサポートを受ける他、筆談やMicrosoft Teamsなどのチャットツールでやりとりすることが多かったのですが、タイムラグは避けられませんでした。また筆談だとどうしても『要約』っぽくなってしまい、細かなところを改めて確認する手間が必要でした」と振り返る。タイピングでサポートしてくれる人に負担をかけることから、心理的な申し訳なさもぬぐい去れなかったそうだ。
それでなくても、エンジニアは「早口」が多い。議論が白熱してくると、いくらタイピングでサポートしていても追い付けなくなってしまう。また、IT業界特有、アクセンチュア特有の専門用語に対応し、きちんと認識できるツールとなると、市販の音声認識ツールでは不十分だった。さらに既製品の大半は話者側のデバイスにインストールする必要があるため、ミーティング出席者全員が準備しなければならず、導入のハードルが高いという課題もあった。
何より「コミュニケーションは本来双方向であるべきなのに、単なる音声認識だけでは、聴覚障がい者から『ちょっと待って』と問い掛けたくても意思表示が難しかった。そこで、音声認識に加え、アクションボタンで簡単に発言できるようにして、障がいを持っている方とそうでない方の双方向のコミュニケーションを支援したいと考えました」と、TransCommunicatorの開発に当たったアクセンチュア テクノロジー コンサルティング本部 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービスグループ アソシエイト・ディレクターの堺勝信氏は振り返る。
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