では、判決文の続きを見てみよう。
(X社が有し、かつ、技術者Yのデータベースシステムにおいても維持されている)体系的構成は、X社の制作者において、それまでのデータベースにはなかった設計思想に基づき構成したX社の創作活動の成果であり、依然としてその部分のみでデータベースとして機能し得る膨大な規模の情報分類体系であると認められ、データベース制作者の個性が表現されたものということができる。従って、技術者Yのデータベースと共通する部分については、データベースの体系的構成としての創作性を有するものと認められる
裁判所はまず、X社がデータベースに施したさまざまな工夫を「それまでのデータベースにはなかった設計思想」として、著作物と認めた。
上述した「a」「b」「c」「d」などは、これを元に出来上がったテーブルやフィールドが平易なものであるか創意工夫に満ちたものであるかを論じる前に、X社がこれまでの経験の中で蓄積した知識や課題解決のために検討した工夫を元にした設計思想そのものが著作物であるとの考えだ。
さらに裁判所は、テーブルやフィールドを含むデータベース構造についても創作性を認めている。技術者Yが「このデータベース構造は、旅行業者向け行程管理システムとして当然なものであり、そこに創意工夫がない」と主張したことについて、以下のように述べた。
(X社のデータベースの構造については)旅行業者向けデータベースにおいて必要な構成であるということはできるものの、これを具体的に構成するに当たって、どのような組み合わせのテーブルを設け、それぞれのテーブルにどのようなフィールドを設けるのか、どのフィールドにプライマリーキーを定め、どのフィールドを用いてテーブル間にリレーションをとるのかなどに関しては、選択の幅があり、制作者の個性が表れるものであるから、少なくとも制作者のいかんを問わず、X社のデータベースと全く、あるいはほとんど同一の体系的構成になるとまでいうことはできない。
従って、個々のテーブルがそれ自体としては必要なテーブルであり、各テーブル内の個々のフィールドがそれ自体としては旅行業者向けデータベースとして必要不可欠な情報の項目を含むからといって、共通部分にかかるテーブル、フィールドおよびリレーションが全体として創作性を欠くということはできない。
単に設計思想だけではなく、実装されたデータベースの構造も、誰が作っても同じになるということはない。つまり、両者共に創作性を認められるという考えだ。
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