私がおたくのデータベースをパクったですって? いやいや、こんなもん誰が作っても同じものになるでしょ。
久しぶりにソフトウェアの著作権の判例を解説する。
今回の判決は、以前「データベースをパクられたので、著作権侵害で9億円請求します!」で一度取り上げ、その考え方も説明したが、著作権の考え方を整理し直す機会として、あえて再度解説することにした。
著作権法は第二条において、コンピュータのプログラムやデータベース、通信などに関する作成物も著作物として認められると示している。しかし、こうした成果物の全てに著作権が認められるわけではない。仮に誰かが何も参考にせず、一から以下のようなプログラムを書いたとしても、これを「著作物」だと主張するのは難しい。
for n in range(1, 100): if n % 7 == 0 : print("7の倍数") else: print("7の倍数ではない")
このプログラムを書くためには、プログラミング言語に関する最低限の知識があれば足りる。そこにプログラマーの創意や工夫、まして思想、信条などというものはない。こうしたプログラムは著作権保護の対象とはならないだろう。
だが、創意や工夫が作成したプログラムの中にあるかどうかの境界線をどこに引くのかは、難しい問題だ。これはデータベースの構造や、そこにアクセスする言語(SQL)を書くときも同じだ。例えば、テーブルの構造やキーの張り方、正規化、そしてSQLを工夫することで検索速度を速くしようと、開発者が頭を捻って出したアイデアも、確かに本人の工夫であるのだから著作物であると考えられる。しかし他方、さまざまな要件や制約、および技術的要素を加味すると、誰が考えても結局似たようなテーブル構造やSQLを考え出すこととなり、そこに開発者の創意、工夫は認められないとする考えもある。
著作権については、恐らく誰もが納得する明確な基準はなく、曖昧模糊(もこ)とした中で進められているのが、ソフトウェア開発なのかもしれない。
今回取り上げるのは、曖昧になりがちな著作権について、裁判所が技術的な観点も踏まえて詳細に検討を重ねた結果、判決を出した例である。データベースの設計とSQLの記述に著作権があるかという問題だ。もちろん、先に述べた事情からも、これが全ての開発に適用可能な明確な基準となるわけではないが、一つの考え方の参考にはなるのではないだろうか。
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