今回は、同じような処理を実現するデータベースであっても、テーブルの構造やテーブル間の関係性に製作者の創意工夫が見られると裁判所が判断し、X社の著作権を認めた。
同じ処理を行うにしても、他の人間がデータベースの定義を行えば違う構造になっていただろう、この構造はこの開発者だからできたのだろうと推定できるものは著作権が認められる余地がある、というのが私の解釈である。
その判断の基準となるのは、「開発者が素晴らしい発明をしたかどうか」ではないし、「出来上がったソフトウェアが、これまで見たこともないような動作をするか」でもない。「開発者が、自分の考えでテーブルの構造や処理方式を生み出したかどうか」が問題なのであり、結果、それが“発明”ともいうべき独創的なものであることまでは求められないのだ。
“創意”と“独創”は必ずしも同じものではない、ということだ。
たとえ出来上がったソフトウェアが平凡なものでも、それが何かをマネたものではなく、異なる開発者が作れば異なる方式になるものであるなら、それは著作物として認められる可能性が十分にある。
技術者Yは、バス旅行の行程作成というどの旅行会社でも使うシステムであれば、誰が作っても似たようなデータベース構造になるはずだし、そうしたものが著作物として認められることはないと考えたのかもしれない。しかし、たとえ業務が平凡でも、そして、それを支援するソフトウェアが珍しいものではなくても、誰かが自分で考えて作ったものの権利は、その人間に帰属する。GitHubなどで明示的に公開されているもの以外は、他人の著作物は基本的に使えない。そう考えた方がよいだろう。
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。
独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。
2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
成功するシステム開発は裁判に学べ!〜契約・要件定義・検収・下請け・著作権・情報漏えいで失敗しないためのハンドブック
細川義洋著 技術評論社 2138円(税込み)
本連載、待望の書籍化。IT訴訟の専門家が難しい判例を分かりやすく読み解き、契約、要件定義、検収から、下請け、著作権、情報漏えいまで、トラブルのポイントやプロジェクト成功への実践ノウハウを丁寧に解説する。
細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)
システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。
プロジェクトの失敗はだれのせい? 紛争解決特別法務室“トッポ―"中林麻衣の事件簿
細川義洋著 技術評論社 1814円(税込み)
紛争の処理を担う特別法務部、通称「トッポ―」の部員である中林麻衣が数多くの問題に当たる中で目の当たりにするプロジェクト失敗の本質、そして成功の極意とは?
「IT専門調停委員」が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則
細川義洋著 日本実業出版社 2160円(税込み)
提案見積もり、要件定義、契約、プロジェクト体制、プロジェクト計画と管理、各種開発方式から保守に至るまで、PMが悩み、かつトラブルになりやすい77のトピックを厳選し、現実的なアドバイスを贈る。
細川義洋著 日本実業出版社 2160円(税込み)
約7割が失敗するといわれるコンピュータシステムの開発プロジェクト。その最悪の結末であるIT訴訟の事例を参考に、ベンダーvsユーザーのトラブル解決策を、IT案件専門の美人弁護士「塔子」が伝授する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.