コロナ禍で企業はDXを避けられない状況に――生き残るための選択肢とは特集:開発者が足りない時代に開発力を上げるための企業戦略(1)

経済産業省の「DXレポート」では、2025年にはIT人材が国内で約43万人不足し、企業に残されたレガシーシステムの老朽化によって膨大な経済的損失が生まれるという「2025年の崖」が大きな問題として挙がっている。このような時代に企業が生き残るためにすべきことは何か、開発者不足を補い、生産性を向上させるための具体的な施策とは何か、有識者の提言や先行企業の事例を基に現実解を探る特集。初回は、現在の課題と企業が生き残るための選択肢を整理する。

» 2020年06月30日 05時00分 公開
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コロナ禍によって、DXを推進せざるを得ない状況に

 昨今のコロナ禍によって、これまで実店舗でモノ売りや接客を行ってきた業種・業態は変革が強いられるようになった。例えば小売りや飲食、観光・宿泊、アミューズメント・イベント、さらには銀行の窓口業務や医療の診察業務、教育などは、いわゆる「3密(密閉・密集・密接)」を避けざるを得ず、ECサイト/デジタル化、ロボット活用、テークアウト/宅配などコト売リを含め、ビジネスモデルの変革、つまりはデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進せざるを得ない。

 エクサウィザーズが2020年5月11日に発表した、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するアンケートでは、収束後(アフターコロナ)に向けた取り組みを調べている。今後必須となる「働き方の再設計(リモートワーク全面導入)」以外としては、既存事業の最適化やコスト削減といった「守りの策」よりも、新規事業の開発やDXといった「攻めの策」を挙げた割合が高い結果になっている(参考)。

アフターコロナに向けて取り組んでいること(取り組もうと思っていること)は?(複数回答)(出典:エクサウィザーズ

 そもそもDXについてはコロナ禍以前から多くの課題が挙がっており、経済産業省が2018年9月に中間取りまとめとして発表した「DXレポート」では、2025年にはIT人材が国内で約43万人不足し、企業に残されたレガシーシステムの老朽化によって膨大な経済的損失が生まれるという「2025年の崖」として取り上げた。レガシーシステムを刷新するためだけではなく、デジタル技術によるコト売リの新しいサービスを実現するためにも、ほとんどの企業でITエンジニア/開発者の需要が増大するといえるだろう。

 このような時代に企業が生き残るためにすべきことは何か、開発者不足を補い、開発力/開発生産性を向上させるための具体的な施策とは何なのか、本稿では下記のような項目で整理してみたい。

  • コロナ禍のエンジニア採用は、どうすべきか
  • 「開発者体験」の向上
  • リモート開発でアジャイル
  • プラットフォーマーになり、API/SDKで開発者を集める
  • 開発者を“不要に”するのではなく、“支援”するAI/機械学習

 なお技術者不足については、そもそも日本ではエンジニア/開発者の給与が平均的に低いという問題がある。記事「なぜ未曾有の人材不足でも、エンジニアの年収は上がらないのか」にあるように、まだまだ内製化を進められてないため、コストの面から、ニアショア/オフショア含めて外注する企業が多い。記事では、「海外から安い労働力を呼び込むことで、人件費の上昇は抑えられ、結果としてエンジニアの給与はいつまでも上がらない」点が指摘されている。

 だが、そうした傾向にも今後は変化が表れるはずだ。厚生労働省が推奨している「新しい生活様式」が社会一般に認識されている今、今後はより多くの業種で、「ITがビジネスの前提」になっていく。ほとんどの企業でITエンジニア/開発者の需要が増大し、その雇用戦略が企業の存続を左右することになる。コロナ禍で景気が悪化する中、企業はこの問題にどう取り組むのか。あえて本特集のメインテーマにはしていないが、エンジニアの待遇に対する企業の課題認識の在り方は、その企業の今後を予想する上でも重要な手掛かりの一つになるだろう。

「アーキテクチャの刷新」と「人材の確保」が急務

 まず見ていただきたいのは、ガートナー ジャパンが2020年2月3日に発表した、エンタープライズアプリケーションの開発についての調査結果だ。企業が生き残る上では「アーキテクチャの刷新」と「人材の確保」が急務であることが分かる。(参考)。

 具体的には、この調査において、ビジネスの阻害要因になっているアプリケーションが存在する理由としては、「必要なタイミングですぐに変更できない」(51%、複数回答)や、「ブラックボックス化」(49%)、「技術者不足」(38%)などが挙がった。これまでも、およそ全てのビジネスをアプリケーションが支えてきたが、アフターコロナにおいては、アプリケーションがビジネス遂行の基盤であるとともに、加速要因にすることが強く求められる。ビジネス遂行を「阻害」することはこれまで以上に許されなくなっていくはずだ。

 ガートナー ジャパン アナリストの片山治利氏は、次のように述べている。

 「これからアプリケーションの刷新に取り組む企業は、既存のアプリケーションがビジネスを阻害している要因を克服すべきだ。阻害要因のトップに挙げられた『必要なタイミングですぐに変更ができない』については、アプリケーションの構造(アーキテクチャ)に問題がある場合があり、アーキテクチャの見直しによって変更を容易にする必要がある。『技術者不足』については、刷新後に必要となる人員やスキルを特定し、アプリケーションを内製/外注する場合の両面から人材確保の方針を検討する必要がある」

コロナ禍のエンジニア採用は、どうすべきか

 では、人員やスキルの不足に対して、企業はどのように対処しているのだろうか。先のガートナー ジャパンの調査では、人材の確保や育成の施策についても聞いている。最も多かった回答は「外注に依存」で、59%が挙げた(複数回答)。次いで、「外部/社内研修」が25%、「外部採用」が23%、「OJT(On the Job Training)」が21%だった。

人材確保・育成の施策(出典:ガートナー ジャパン

 人材の確保や育成に対し、日本企業は外注への依存度が高く、「外部からの採用によってIT部門の人員を増やそうという意志が弱い傾向」がある。従業員数の多い大企業は、外部から採用する割合が40%台半ばで比較的大きいが、人材の確保や育成に積極的に取り組んでいない企業もあるという。

 一方で、外注が難しい領域では内製が必要になり、ITエンジニア/開発者を採用しなければならないケースもある。またDXレポートでは、内製と外注の比率を2017年の3対7から欧米並みの5対5にすべきであることを展望している。だが、コロナ禍における採用業務はどうすべきなのか。

 そもそもコロナ禍によりエンジニアの転職事情に変化はあったのだろうか。2020年4月27日に転職サービス「Findy」が発表した「【4/27発表】新型コロナウイルス感染拡大に伴う中途エンジニア転職市場への影響、実態調査ver.2」によると、企業の91%が採用を継続し、前月比で大きな変化はなかったという。また、全てオンラインで面接を行う企業が87%と急増。オンラインでの選考について、「会社の雰囲気を伝えづらい」「一度も会わずに内定を出すことを、なんとなく不安に感じる」など難しさを感じている企業が65%となっているという。

オンライン選考の難しいポイント(出典:Findy

 エンジニア採用そのもののノウハウがない企業は多いが、さらにオンラインでの採用活動となれば、ハードルはさらに上がる。まさに今ノウハウをためていかなければ、人材戦略で後れを取ることになるのは間違いない。2020年5月14日に「リモートワーク時代のエンジニア生存戦略」が公開されたばかりの元プログラマー、現エンジニア採用担当の筆者による連載の続報を待ちたい。

「気持ちが良い開発環境」は、「アーキテクチャの刷新」と「人材の確保」の両面をカバーする

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