高木 「通知が出たときに何をすればいいのか」も、はっきりしていないですよね。通知が出たら電話するんですかね?
山本 100回でも200回でも電話するんですよ。
高木 その後どうするかが……。
鈴木 期待する行動変容が見えないということですか?
高木 もともとは、「今日何人と接触したかを見て行動変容するためのアプリ」だと、Code for Japanの人たちは言っていたけれど、その機能は入れられなくなったわけです。前半で述べたようにAppleとGoogleのAPIにその機能はないので。そうすると、本来の目的であるコンタクトトレーシング、つまり接触者追跡に協力するために、通知が出たときどうするのかが分からない。
山本 それは「コロナ外来に行ってください」なんですよ。
板倉 だから幾つかの要素の一つですよね。この接触があった人とあなたはアプリ上つながっていたはずなので、熱があるなど他の症状がある場合は行ってくださいという通知しか出しようがないです。
高木 誰と接触したかは出ませんからね。何時とかも分からず、過去に誰かと接触したというだけ。それを連絡したとして、何をするのかなと。「マニュアル・コンタクトトレーシング」と呼ばれる聞き取り調査(積極的疫学調査)をして突き合わせるんですかね。
山本 マニュアル・コンタクトトレーシングとは結局、本人がコロナ外来に行って発熱などの主訴があって、その結果として出ている診断と、コンタクトトレーシングの結果が出てくる通知と全部を合わせて、なおコロナ感染の疑いがあって初めて、「コロナ外来でこういう診断となったので、担当の保健師は当人に聞き込みを行ってください」という話です。ここに技術の介在する余地はあまりないので、結局は人力で頑張って対応するしかありません。
高木 そうなるわけですよね。
鈴木 インセンティブ設計が見えなくてね。例えば、通知が画面に出たら、それを持っていくだけで特定の病院で優先的に検査できるとか、真っ先に診察が行われるとか、自分と家族を守るためのインセンティブにつながるところがアピールされれば、参加するインセンティブになるんですよね。
板倉 そこは要するに、どれくらい通知があって、どれくらい来てさばき切れるのかをテストしないと分からないと思いますけれど。どこまでPCR検査をやるのかは、割と神学論争になっていますよね。今(2020年6月10日現在)は感染者の母集団も減っているんだから、やろうと思えばやれるので、そこの考え方を変えることも含めて検討して。しかも、「1人陽性出たときに、何件くらい通知が出るか」をテストしてみないと、「どうやって受け入れるか」も分からないですよね。
山本 結局、出口がないんですよね。「あなたはそういう接触があります」とアラートを出してもらって、それを国民がどう判断するかは国民に委ねられてしまっています。「保健所に電話すればいいのか」「地元の医療機関のコロナ外来にいけばいいのか」は、次のフェーズで別の話になります。
だから、利用する側のインセンティブはなかなか働かず、よく分からないまま制度やアプリだけが進んでいっちゃったというのはあると思いますね。故に、インストールされず、利用もなかなか進まない。
高木 朝のワイドショーでアプリの使い方とかを説明するときに、その話が出ると思うんですよね。通知が出たという人に取材して、「その後どうしましたか?」と取材することになると思うんですけど。そこでどうすべきかを、果たして言えるのか。
山本 そうですね。「そこは制度設計上、追えます」「仕組みとしては適法ですよね」と言ったところで「では、どうするのか」というリアクティブなところに関してはまだきちんとした議論が固まっていないままで話が進んでしまっているというのが、非常に弱いところなんです。
しかも、誰が悪いという話でもないし、政府の広報に関してもそこまで言っていないわけです。「個人情報を扱わない」と言いながらも、個人情報に近いものをコントローラーとして持っています。であるにもかかわらず、積極的に情報提供ができたとしても、もらった情報提供をどう生かすかについてはガイダンスがないわけですよね。
「もし体調が悪かったら医療機関に行ってくださいね」くらいで、それ以上にはなかなかならないんですよね。トレーシングアプリから「感染の疑いがある人と濃厚接触したかもしれませんよ」と言われても、どこまで利用者が真剣に受け止めてくれるのか。
鈴木 ということは、政策として未完成でスタートしている。こういう状況下では拙速を尊びますから、失敗には寛容であるべきだと思います。しかし、それ以前にあまりにも詰めが甘いんじゃないですかね。一応の計画があれば、失敗が教訓になり、改善につながります。反省のベースになる計画自体に穴があり過ぎると次につながらないのでね。
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