お任せください――プロジェクト管理義務怠慢を疑われたベンダーを窮地に陥れたのは、自社サイトに書かれていたある言葉だった。
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私は裁判所で10年ほどIT紛争を見てきたが、その中には、ほんの小さな一言が裁判所の判断を左右する重要な材料となってしまう事件が幾つかあった。
プロジェクト実施中の会議で発した「その辺りは、われわれが責任を持って対処します」という言葉が、後になって数千万円級の債務を背負うキッカケになったり、「よろしくお願いします」と言われて反射的に「はあ……」と答えてしまったことが重大な約束と見なされたり……。
今回取り上げるのも、ベンダーがとあるところで発信した言葉が裁判所の判断の材料となったものだ。その言葉が決定的な証拠とまではならなかったが、ベンダーの技術者やプロマネ、あるいは営業担当者でさえも、さして重要視していなかったであろう言葉が、判決文の中に明確に記される重要事項となってしまった例だ。
事件の主題は、プロジェクトにおけるベンダーの役割なのだが、その判断に「ベンダーのWebサイトの文言」が取り上げられている。大変珍しい例だが、ベンダーのセールスやプロジェクト管理上のちょっとした注意事項になると思い取り上げることにした。
事件の概要から見ていこう。
Jリーグに所属する各クラブ向け電子チケットサービス用システムの刷新を企図したユーザー企業が、その設計および開発をあるITベンダーに依頼した。開発はユーザー企業による要件確定の遅延やシステムの不具合発生などもあり、一部が遅延し、ユーザーへの引き渡しは当初予定から半年遅れることとなったが、ベンダーは最終的には納品までは行い、ユーザー企業に費用の支払いを求めた。
しかしユーザー企業は、自社には納期遅延による損害があったとし、その賠償額とベンダーの費用を相殺するとの意思表示をした。これに対してベンダーは遅延の原因はユーザー企業による要件定義の遅延や機能追加などにあるとして、あくまで支払いを求めて訴訟を提起した。
本連載の古くからの読者は、この事件がシステム開発における「プロジェクト管理義務」の問題をはらんでいることにお気付きだろう。
ITの専門家であるベンダーは、素人であるユーザー企業のプロジェクトの関わりを管理する義務がある。例えばユーザー企業がいつまでも要件を決めないのであれば、そのリスクを説明して早く決めるように促し、また当初予定していなかった要件の追加や変更があるなら、それに対してスケジュールの見直しや追加費用の請求を行うなどしてプロジェクトを円滑に進める義務がある。
できるならできる、できないならできないとハッキリと伝え、代替策をユーザー企業と検討する義務がITベンダーにはある。これを「ITベンダーのプロジェクト管理義務」といって、本連載でも平成16年3月10日の東京地裁判決(※)を題材に触れたことがある。
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