やった分はお金ください。納品してないけど「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(81)(1/3 ページ)

不幸にも中断してしまったプロジェクト。納品も検収もまだだけど、ベンダーは代金を回収できるのか?

» 2020年11月02日 05時00分 公開

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「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説

連載目次

中途解約でもお金はもらえる?

 実施していたプロジェクトが何らかの理由で中止となったとき、発注者(ユーザー企業や元請け企業)は、受注者に対してどこまで支払うべきなのか。逆に受注者であるベンダーは、どこまで請求できるのか。ソフトウェア開発の場合、その解釈が曖昧になりやすく、だからこそ紛争に発展してしまうケースも少なくない。

 請負契約の途中解除に関する条文としてよく取り上げられるのが、「民法641条」の「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる」という条文だ。

 これを素直に解釈すれば、発注者は契約を解除できるが、それには損害の賠償が必要ということになる。ただ、これに従って損害を賠償しようとしても、受注者の損害をどのように算定するのかまでは規定してはいない。そこは基本的には発注者と受注者の間で取り交わされる契約で決めておくべき事柄なのだ。

 IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は、損害の算定について契約書に記述がなかったために発生した事件を取り上げる。発注者にとって、あるいは受注者にとって、契約の記載のどこが問題であり、どうすべきだったのか、考えてみたい。

中途解約時の賠償金額が問題となった事件

 事件の概要から見ていこう。

東京高等裁判所 令和元年12月19日判決から

あるユーザーとベンダーが、システム開発を委託する旨の本件基本契約を締結し、そこには、プロジェクト途中での契約解除を想定した条文が記されていた。

基本契約第28条
1 本件基本契約27条2項による協議の結果、変更の内容が委託料、納期およびその他の契約条件に影響を及ぼすものであるなどの理由により、ユーザーが本件基本契約または個別契約の続行を中止しようとするときは、ユーザーはベンダーに対し、本業務の終了部分についての委託料の支払をした上、本業務の未了部分について解約を申し出ることができる。(2項は省略)

 ユーザー企業とベンダーは、この基本契約の下、以下のような個別契約を締結してシステム開発プロジェクトを実施した。

個別契約1:システム要件定義およびプロジェクト計画策定 報酬額2000万円

個別契約2:UI工程(基本設計)、SS工程(詳細設計)、PG工程(プログラミング)など 報酬額約1億9000万円

 このうち個別契約1は予定通り作業が完了し、支払いも完了したが、個別契約2はカスタマイズ量の増加など課題が多数発生し、プロジェクトが遅延した。

 ベンダーはUI工程の完了報告を提出したものの、実際には多くの積み残し作業があり、SS工程も予定通りには進まないという状態に陥っていた。ユーザーとベンダーはさまざまな協議をしたものの、結局解決の道筋は見えず、ユーザーがベンダーに個別契約2の解除を通知した。そのとき、プロジェクトはSS工程実施中だった。

 基本契約第28条の内容は、「もしもプロジェクトに何か変更が発生し、それについて双方が協議をしても解決の方針を得られない場合には、契約は解除される。その場合、ユーザーは、その時点での終了部分について費用の支払いを行う」という内容である。

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