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» 2020年09月14日 05時00分 公開

「ブレードランナー」の世界を、2020年のテクノロジーで解説しよう思い出も時間とともにやがて消える。雨の中の涙のように(2/7 ページ)

[米持幸寿,@IT]

レプリカントの知能はAIか

 最初の疑問は「レプリカントの知能はAIか」ということである。

 小説では、人造動物のほとんどが「電気仕掛け」として表現されており、「電子回路を内蔵したニセモノ」「オート麦への向性回路が内蔵されている」「制御機構の隠しパネル」「発声テープが引っ掛かった」という表現も見受けられる。タイトルにもある、物語の主役のブレードランナー、リック・デッカード(映画で演じたのはハリソン・フォード)が屋上で飼っている「電気羊」もその一種だ。

 一方、アンドロイドたちには制御パネルのような表現は一切登場せず「人間と見分けがつかない」ことになっている。映画作品ではそちらに合わせ、動物にさえも「制御パネル」のような表現は見当たらない。つまり、映画作品以降では、人工物である動物および人造人間は、全て遺伝子工学により作り出された「人工生命体」であり、電気仕掛けの機械だというイメージを持たせないようにしている。そのため「アンドロイド」という言葉を避け、「レプリカント」という言葉が生まれたそうだ。

 背景として、レプリカントであることを確認するための「フォークト・カンプフ検査(Voight-Kampff Testing、以降VKテスト)」が挙げられるだろう。

 1968年の小説でのアンドロイドや1982年の旧作映画のレプリカントは、外見からは判別できる特徴が全くないという設定で、レプリカントが人間社会にもぐりこみ、容易には判別できないことが物語の重要なポイントとなっている。

 そのため、制御パネルのような「分かりやすい特徴」は、むしろない方がよいのである。唯一「骨髄検査」を行うと、明確にレプリカントかどうかを判別できるとされており、処理済みの身体を検査すれば判明することになっていた。

 旧作映画までは、最新型のレプリカントが「ネクサス6」という製品で、人間より高い知能を持つと設定されている。「ブレードランナー2049」では右目の眼球下に製造番号が刻印され、判別が可能だという設定となっている。これはネクサス7以降の特徴である。

 旧作では、レプリカントを探し出すためにVKテストが必要で、「ブラックアウト2022」以降では、右下眼球下部を見れば分かる。このように、レプリカントは人工生命体であり、人間と同じように遺伝子配列を持ち細胞を持っている「生き物」である。

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 では、レプリカントの知能はAIだろうか?

 「AIかどうか?」答えは、AIの定義によって変わってくるだろう。小説には「ネクサス6型脳ユニットは、2兆個の構成要素の場を備え、1千万通りの神経回路の選択がきく」という解説がある。

 レプリカントの記憶は恣意(しい)的に作られたものであり、「移植された」ものという設定だ。この「植え付けられた記憶」は、全作品を通して重要な位置付けとなっている。これらを総合すれば、レプリカントの脳は意図的に設計され、製造され、データを読み込ませたものと考えることができ、「AIの一種である」と考えることもできるだろう。

 ただし注意しなければいけないのは、現代のAIとは全く異なるものであるということだ。

 レプリカントの脳は遺伝子によって構築された、あるいは育成、または培養された、動物(生物分類学上は昆虫も動物界に属する)の脳に近いものである。脳の活動では実行されているタスクも幅広く、現代では解き明かされていないことが多過ぎる。

 一方、現代のAIは算術演算装置である汎用(はんよう)プログラマブルコンピュータに、ある一定のアルゴリズムを構築したり、統計確率計算を効率的に行ったりするシステムである。タスクとして何を行うか不明のものは恐らく存在せず、あらかじめ決められた回答、あるいは動作を「確率によって決めている」システムにすぎない。つまり、全く異なったものであると言わざるを得ない。いや、より正確には脳の活動が完全に解明されていないので「異なっている」とも言えないのではあるが……。

 現代のAIでは、実行されているタスクの数は限定的であり、数学者によって考え出されたアルゴリズムによって実行されていることが多い。また、AIと呼べるものの多くが「統計的確率計算機」であって、確率計算が行われた後の振る舞いの多くが、プログラムされたソフトウェアであることが多い。近年はディープラーニングの発達により、読み込ませた大量のデータから導き出される答えは説明が難しくなってきてはいるが、多くのアルゴリズムは「手作業で作られた=プログラムされた」ものである。

Point!

レプリカントの知能は、現在のものとは懸け離れたAIの一種である

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