会社の方針で契約外作業も積極的に行っているベンダーのメンバーは、本業がピンチなのにサービスをやめようとしない。みんな「ゆでガエル」なんじゃない?
ベンチャー企業。AIソフトの開発を得意としていたが、最近はさまざまな案件を請け負っている
大手コンサルティングファーム
メガバンク「イツワ銀行」の勘定系システム刷新プロジェクトでは偽装請負が横行していた。パートナー企業の「サンリーブス」も契約外の作業でイツワや他のベンダーの手伝いにメンバーが奔走しており、プロマネの澤野翔子やマネジャーの田原がイツワに是正を依頼するが状況は変わらない。そのころ主力パートナー企業の「東通」でテストデータの消失が判明し……。
9月10日、「A&Dコンサルティング」の会議室。サンリーブスに出向してイツワ銀行の勘定系システム刷新プロジェクトに携わっている澤野翔子から、プロジェクト内に横行している契約外作業まん延の話を聞いた後輩コンサルタント江里口美咲は、腕組みをして「フン!」と鼻から息を吐いた。
「その田原ってマネジャーも、契約外作業を承知したってことですね?」
「ったく、情けないマネジャーだな」
美咲の同僚の白瀬が口をへの字にしてつぶやき、翔子は視線を落とした。
「ええ。情けないです。でも……田原マネジャーも、どうしようもなかったんだと思います」
「どうしてです?」と、白瀬が少しだけ身を乗り出した。
「プロジェクトが始まった1年前に、布川社長から言われていたらしいんです。『何があってもイツワとはうまくやってくれ』って」
「だからって、そんな違法行為を見逃すことまでは」
意気込む白瀬に、翔子は首を横に振った。
「社長は、偽装請負なんて気にしていなかったんだと思います。とにかくイツワとの実績を作って評判を上げて、サンリーブスの名前を売る。そのためには、多少のことには目をつぶる。そんな考えだったんだと」
「どうしてそう思うんです?」
「その後に起きたもめ事への対応を見れば分かります」
「相手の部長とケンカになったって話ですね?」と、美咲が尋ねた。
「ええ。プロジェクトが進んで、いよいよ私たちの画面開発が本格化したときです。実は、私たちの作ったモックに想像をはるかに超える改善要望があって。それ自体は、こちらの勉強不足でしかなかったんですけど」
「60画面に400項目の注文が付いたんでしたっけ?」
「ええ。サンリーブスの作る画面は、一見かっこいいけれどPCに不慣れな人には不親切で操作法が分かりづらいとか、字が小さいとか、従来の画面とデザインが変わりすぎて違和感があるとか……」
「ありそうな話ですね」
「でも、そういうのは、まだやれば済むんです。でも中には、他のベンダーが作るサブシステムとのインタフェース仕様が違っていたとか、データベースアクセスの問題で、大量のデータを画面側でキャッシュしておかなければならないことが後で分かったとか、そういう技術的な問題も数多く判明して。もともとのスケジュールに余裕がなかったところに大量の追加作業が発生して、現場が混乱してしまって……」
「その上、よそからの契約外作業依頼も相変わらずだったと」
顔をしかめる美咲に翔子がうなずいた。
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