偽装請負に苦しむ先輩を助けるために、白瀬が乗り込んだのはユーザー企業の法務部だった。そのころ江里口はある老人を訪ねていた――。
ベンチャー企業。AIソフトの開発を得意としていたが、最近はさまざまな案件を請け負っている
大手老舗ITベンダー。イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクトでは、顧客の信用管理機能のスコアリングパートを受け持っている
大手コンサルティングファーム
日本を代表するメガバンク。勘定系システム刷新プロジェクトの真っ最中(ただし、2回リスケ)
サンリーブス株主
「イツワ銀行」の勘定系システム刷新プロジェクトでトラブル発生。パートナー企業「サンリーブス」の桜田が契約外でサポートした「東通」でテストデータが消失。対応に追われつつ自社の担当分野も行い、イツワ行員からの契約外作業も行うサンリーブスのメンバーは限界寸前。本社からの支援が来ず、桜田はダウン。更迭が告げられ、社長にも連絡が取れなくなった四面楚歌(そか)の澤野のために、後輩の江里口美咲が動き出した――!
どうしたらいいのだろうか。どうやったらこのプロジェクトを、いや、このメンバーたちを、そして自分を救えるだろうか――澤野翔子は汗臭い空気の中で、ぼうぜんとしていた。
「澤野さん!」
ふいに後ろから呼び掛ける声に振り向くと、大きな体の男が立っている。A&Dの白瀬だった。その隣には、対照的に細身の東通岸辺が立っている。無精ひげを生やし、手入れされていない髪の毛もモサモサとしたままだが、その目はしっかりと輝いている。
「一緒にいきませんか? そろそろ反撃に出ましょう」と白瀬が言った。
「反撃? まさか山谷本部長のところに?」
「いやいや、そんな正攻法の通じる相手じゃない。われわれが行くべきは、イツワの法務です」
「法務?」
「ええ」と、岸辺が頷いた。
「私も、白瀬さんに誘われたんです。彼は澤野さんの同僚なんですって?」
「ええ、まあ」
「いや、とにかく一生懸命に口説かれちゃいましてね。『一緒に法務に行って、サンリーブスを助けてほしい。これは東通のためでもある』って」
翔子はイツワの法務部の人間とは会ったことはない。そんなところへ行って何がどうなるのか正直見当もつかない。しかし、白瀬が動くということは、信頼する美咲も動いているということだろう。
「それとも……」と、岸辺が問い掛けた。
「サンリーブスの上の方にも、承諾が必要ですか?」
翔子は立ち上がった。
「要りません。そんなもの」
結局、田原も布川も自分たちを助けてくれない。そんな上司たちより今目の前に立つ2人の方が、よほど頼りがいがあると思えた。
「行きましょう。法律専門の部門にだったら、私にだって言いたいことはあります」
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