「岸部さんから『お話が』とは聞いていましたが、澤野さんにA&Dのコンサルさんまで。こりゃあ、怖い怖い。で、今日は何でしょう?」
相好を崩して3人を迎えたのは、法務部課長の小関という男だった。大きなお腹でベルトがはちきれそうだ。
白瀬が突然のアポイントメントについてわびたのち、サンリーブスと東通の状況について一通り話した。
当初から苦しいスケジュールの上に、ウイルス騒ぎがあり、どうしても本稼働が間に合いそうにないこと。東通のメンバーもサンリーブスのメンバーも体力は限界に達しており、これ以上は無理がきなかいことなどを、白瀬は順序立てて話していった。
「まずは、心よりおわび申し上げます。誠に申し訳ありません」
白瀬の話の後、岸辺が頭を下げた。つられるように翔子も深く腰を折った。小関は話が始まったころは笑顔を浮かべていたが、勘定系リリースの遅延が避けられないと知ってからは、顔が曇ってきた。
「イツワは既に2回、リリースを延期しています。ここでさらに遅れるとなれば、こりゃあタダじゃすみませんよ。東通の社長クラスにも、ウチの頭取にご説明いただかないと」
小関の厳しい目が岸辺に向かった。
「その点については当然、最重要事項として社長以下、対応を検討いたします。ですが……」
「ですが……? そうか。わざわざコンサルさんまで連れて法務部にいらっしゃるってことは、何かウチにも問題があるとということですか?」
小関の大きな目が鋭くなり、白瀬はそれに負けじと大きく息を吐いてから話を続けた。
「プロジェクトルームでは今、イツワの行員から各ベンダーのメンバーに、さまざまな作業依頼が飛んでいます。サンリーブスだけじゃない。東通にも、他のほぼ全てのベンダーにもです。ベンダー同士でもそうですが」
「作業依頼?」
「例えばサンリーブスのメンバーは、行員の席まで行ってPCの操作を教えたり、RPAの設定を行ってあげたり。東通のメンバーも、プロジェクトとは無関係のさまざまなレポート作りに駆り出されたり、簡単ですがプログラム作りまで行ったり」
話を聞いた小関が色を失った。
「それは……」
「ええ、偽装請負です。1年以下の懲役、もしくは罰金刑。刑事訴追を受けかねない状況がプロジェクトルームで行われ、いえ、まん延しています」
小関の黒目が何度も左右に動き、その後、翔子にも向けられた。
「本当ですか?」
「はい。既に弊社メンバーが一人、過労で入院しました。彼女の作業の大半は、本来の契約を逸脱したものであることが明らかです」
翔子が答え、岸辺も隣でうなずいた。
「まずい。こりゃあ、まずいですな。いや、田中や山谷はもちろんだが、そんなことを見過ごしていた私も、タダじゃあすまん」
小関の唇がわずかに震えるのを見た岸辺が、重ねて言った。
「勘定系システムの刷新プロジェクトは、2回延期されています。継続して担当されていた山谷本部長と田中課長は、既に崖っぷちに立っていたようなものですよね」
「あ、ああ」
小関の顔色はまだ戻らない。
「さて。ここで、ちょっとご相談です」
白瀬がほほ笑んだ。
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