イツワ銀行内で横行していた偽装請負は頭取の知るところとなり、事態は改善され行内の関係者は更迭された。もう一方の主犯格、サンリーブスの布川は逃げ切れるのか――。
ベンチャー企業。AIソフトの開発を得意としていたが、最近はさまざまな案件を請け負っている
大手コンサルティングファーム
サンリーブス株主
偽装請負による過重労働などが原因で崩壊寸前の「イツワ銀行」の勘定系システム刷新プロジェクト。パートナー企業「サンリーブス」プロマネ澤野のために後輩の江里口と白瀬が仕掛けたディールにより、イツワの担当者は左遷され、サンリーブスの布川創業社長は株の売り抜けに失敗した。江里口たちは、サンリーブスのエンジニアたちを救うことはできるのか。
翌日の朝、およそ2週間ぶりに桜田みずきがイツワのシステム室内にあるサンリーブスプロジェクトエリアに現れた。
「澤野しゅにーん♪ ご心配をお掛けしましたあ」
そう言って頭を下げるみずきは、顔色も良く、すっかり元気を取り戻したようだ。
「元気になったみたいね。良かったわ」
翔子がほほ笑んだ。
「おお、戻ったか。良かった良かった」
そう声を掛けたのは、真っ白に洗濯したワイシャツを着た野口だ。
「あのお……プロジェクトの方はあ……」
遠慮がちに尋ねるみずきに、西城が笑顔で答えた。
「安心しろ、リリースが3カ月伸びたんだ。おかげで何とか人間らしい生活に戻れたよ。イツワからもよそからも作業依頼はなくなったし」
「頭取の鶴の一声で、プロジェクトが正常になったの。さあ、これからリリースまで、しっかりと働いてもらうわよ」
翔子はそう言うとみずきの肩を軽くたたいた。
「でもお……」
「何?」
「サンリーブスの株価が激下がりしてるって友達が言ってたんですけど、大丈夫なんですかあ?」
「う……ん」と、翔子は少し考え込むように黙ってから話し出した。
「みんな、ちょっと聞いてくれる?」
メンバー全員が翔子に注目した。
「こんな場所で言うのもなんだけど、今後サンリーブス株は、ほとんど紙くずになるかもしれないの」
「えええ!」
ほぼ全員が同時に声を出した。
「あまり大きな声を出さないでね。よその会社にあまり聞かれたくはないから」
翔子はそう注意してから、話を続けた。
「実は、サンリーブスの偽装請負が株主たちにバレたらしくて、株が投げ売り状態になってるの。今日の寄り付きはいきなり1000円を割ってるし、もう歯止めが利かない。多分、買う人がいなくて、売りたい人がいても取引不成立でしょうね」
野口が声を潜めて翔子に尋ねた。
「じゃ、じゃあつぶれるんですか? ウチの会社」
その言葉に、その場の全員が息をのんだ。
「かもしれない。でも、私の知り合いによるとね、みんなの技術力を高く評価してくれる人が株主の中にいて、最終的にはその人が救ってくれるだろうって」
「じゃあ、会社は残るんですか?」
「ええ。そうなるはず。でも……」
「でも?」
「今回の件、みんなが苦労したのは、誰のせいだと思う? 偽装請負を社員に押し付けて、株価が上がるのを喜んでいた張本人は?」
メンバーたちが顔を見合わせ、みずきがおずおずと答えた。
「布川社長……ですかあ?」
「そう。今後のサンリーブスには絶対いてはいけない人。だから今のこの株の下落は、布川社長をサンリーブスからふるい落とすために株主たちがやっていること。そう思って間違いないわ」
「……じゃあ、いい会社になるんですね?」と、西城が尋ねた。
「もちろんよ。みんな優秀なんだから!」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.