「RGB」とは、ディスプレイの光による加法混色の原色です。混色すると明るさが加えられ、3色混ぜると白に見えます。印刷に使われるインクの色は「CMYK」です。CMYが減法混色の原色で、混ぜると明るさが減少します。Webデザイナーは普段RGBを基本に考え、グラフィックデザイナーはCMYKを基本に考えているわけです。
そのため、ディスプレイでは美しく表示されていた色も、印刷してみると全く違う色に見えるといった事故が起こる可能性が高まります。
ページネーションはWeb、印刷物ともに存在する考え方ですが、両者とも言葉の使い方が違います。ここでの印刷物はチラシ1枚ではなく、パンフレットなどのページが存在するものを指します。
Webのページネーションは、文章量の多い記事の最下部に「前へ/次へ」「1.2.3...」と表示されているボタンを指します。今、自分がどこにいて、後どれくらいの量があるのかを可視化します。またページを軽くする効果もあります。
パンフレットのページネーションは、「何ページ目に何をどういう構成で配置するか」を指します。Webはどのページからでも閲覧でき、どのページにも遷移できますが、印刷物は1ページ目からの「流れ」を考える必要があります。導入、一番の見せ場、締めくくりというストーリーが必要になるため、経験が乏しいと難しい作業になるでしょう(当然ですが、どちらが優れているという話ではありません)。
ロゴタイプ(ロゴにおける文字の部分)はWebデザイナーもグラフィックデザイナーも作成する機会が多々ありますが、本文の文字組みになると勝手は変わります。Webの表示はユーザーが閲覧する環境にかなり左右されるため、指定できるのはゴシック体か明朝体かなど限られた項目しかありません。環境によっては句読点が行の最初に来ることもあります。
一方、グラフィックデザイナーは改行の位置や句読点、記号の後のスペースなども計算して文字を組みます。印刷物ではそれがそのままカタチになるためです。
グラフィックデザイナーは印刷物をメインに手掛けているだけあって、紙や印刷の特性も理解しています。デザインの雰囲気に合わせて、反射のある紙がいいのか、しっとりとしたマットな紙がいいのか、黒がしっかりと出る紙、出ない紙などの違いもあり、それらを使い分けます。適当に紙を選んでしまうと、商品の良さや雰囲気を的確に伝えるものにはなりません。
グラフィックデザイナーにWebデザインを頼むことも同じで、あまり良い結果にはならないでしょう。例えば、ピクセル単位でオブジェクトを作成しない(ぼやけた画面になる)、複雑なレイアウトにしすぎて全て画像にせざるを得ない(ページが重くなる)などの問題が挙げられます。
よく「男性向け」や「女性向け」といった表現がありますが(本連載でも便宜的に使用しましたが……)、多様性が重要視される昨今、性別や国籍でターゲットを絞ることはサービスの成長に寄与しませんし、社会に与えるメリットもありません。
それどころか差別を容認、助長する企業、ブランドであるという認識を持たせてしまうリスクがあります。もちろん、商材によって担当するデザイナーを男性/女性、日本人/外国人などと指定することはもっての外です。
筆者が経験した例では、依頼側が「化粧品のパンフレットは女性に作らせるべきだ」という意見をしていたことがあります。担当した女性のデザイナーは「私、化粧はしないし」と言って怒っていました。女性だからといって絶対に化粧するとは限りませんし、全ての女性が化粧品に詳しいわけでもありません。
とはいえ、新しい意見を取り入れたいから化粧品に興味のない男性に作ってもらおうというのも違う話で、筆者が経験した「男性の意見を優先して取り入れた化粧品」のデザインの感想は「ダサい/分かりにくい」でした。
これは難しい問題ですが、「使う上でどういう気持ちになってほしいか」「生活の何を便利にするものなのか」を考えられる人にデザイン制作を依頼すべきかではないかと考えています。
筆者は昔、macOSに搭載されていたカレンダーを瞬時に確認できる「Dashboard」という機能を重宝していました。しかし、祝日が分からない点が不便だったため祝日も分かるカレンダーのアプリをインストールしました。
例えばこのカレンダーアプリで「日本人が便利に感じるよう、日本の祝日を入れたカレンダーを提供しよう」ではなく「幾つかの国の祝日を設定できるカレンダーにしよう」という意見があればどうなるでしょうか。「日本人に便利なカレンダー」から「日本人はもちろん、日本で働く外国人や、外国人メンバーがいる職場にも便利なカレンダー」とターゲットが広まっていきます。
これが多様性です。多様性という言葉は昔から存在したはずなのに、ここ最近になって重要視されるようになったのはインターネットの存在が大きな理由でしょう。Webで公開されたものは海外からでも閲覧できますし、国内向けに制作したものであっても、日本を訪れた外国人に見られるかもしれません。
性別や年齢で制作メンバーを制限することなく、あらゆる世代、性別、文化のメンバーによる意見を取り入れていきましょう。小さな違和感を放置せず、デザイナーと依頼主という立場に関係なく意見を言い合える環境が、デザインやサービスをより良いものにするきっかけとなるはずです。
今回は費用、専門分野、性差(その他生まれ持った要素)による役割分担など「少し気になるけどこんなものでいいか」と放置されがちな部分にフォーカスしました。
技術的分野はそれぞれ専門家に依頼すべきですが、アイデア出しや意見交換などは、大勢とした方がよいでしょう。全ての意見を取り入れることは無理でも、プロジェクトの目的を見据えて取捨選択とブラッシュアップをしてください。
制作費も「まとめてお願いすれば安く済むし」と専門外のデザイナーに依頼しても、結局工数もかかり費用対効果も悪かったという結果になりかねません。絞るところと出すところを見極めていきましょう。
3回にわたってお送りした本連載は今回で最終回になります。デザイナーが何を考えながら仕事をしているのか、どういう指示をすれば提案してもらいやすくなるのか、どこまで関わってもらえばいいのか、どう依頼すればいいのかを「取扱説明書」として解説してきました。
デザイナーと仕事をするたびに本連載を思い出したり参照したりすることが理想ですが、難しい場合は一つだけ覚えていてほしいことがあります。「デザイナーはパートナー」ということです。下請けでも便利屋でもなく、相談して協力して、一緒に作り上げていく存在であることを覚えておいていただければ、自然と「良い取り扱い方」ができると筆者は考えています。ぜひ実践していってください。
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