通信が自由化されて企業ネットワークの構築が盛んになった1980年代から現在に至るまで、企業ネットワークはネットワーク機器や回線、サーバなどを組み合わせて「作る」ものだった。しかし、作る時代は終わり、「選ぶ」時代が始まっている。
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企業ネットワークへの要求はますます高度化、多様化し、しかも素早い対応が求められている。マルチクラウドの進展とそのトラフィック急増への対処はもちろん、コロナ禍に対応するテレワーク環境の整備とセキュリティの強化、運用負荷の増大への対策などだ。このような要求に従来通り、「箱」を買ってきてオンプレミスで対処するのは困難になった。時間がかかるだけでなく、箱を持つこと自体が新たな制約や運用負荷をもたらすからだ。
「作る」のではなく、ネットワークサービスを「選ぶ」という発想転換が必要だ。
図1は筆者が毎年、年初に作成している企業ネットワークのトレンド図だ。トレンドを一言で表せば「『作る』時代から『選ぶ』時代へ」。オンプレミスで機器や回線を接続して必要な機能を実現するのではなく、キャリアや大手IT企業が提供するネットワークサービスの中で必要な「メニュー」を選択するのだ。
ネットワークサービスはソフトウェア化、仮想化が進展しており、ユーザーがポータル(Web画面)から申し込むだけでリアルタイムにメニューの利用を開始できるサービスが増えている。選択したネットワークサービスによって、その企業ネットワークの柔軟性や拡張性は大きく左右される。ネットワークサービスを選択する上で重要なのはクラウド接続、セキュリティ、モバイルの3つのサービスだ。詳しくは後述する。
企業ネットワークで使う5Gの種類としてはローカル5Gより、プライベート5Gが主流になるだろう。その理由は前回の連載、「sXGPやローカル5Gより、『プライベート5G』への期待が大きい理由とは」に書いた通りだ。これを書いた時点では、プライベート5Gのサービスを最初に始めるのは2022年のソフトバンクだろうと考えていたが、実際にはKDDIが2020年12月16日にサービスを開始した。
図1にあるように、今後、オフィスビル内への5G基地局設置が進むだろう。そもそも4Gと比べて5Gの周波数はサブ6と呼ばれる周波数帯でも2〜3倍程度高い。オフィスビルの内部に浸透するような電波ではないのだ。5Gをオフィスビル内で使うには内部に基地局を設置するしかない。
アフターコロナと呼ばれる時代になっても、革命的に変わった働き方がコロナ以前に戻ることはない。テレワークが通勤時間の無駄を省き、効率化とワークライフバランスを実現するスタイルとしてかなりの割合で残るだろう。それに適したネットワークサービスやコミュニケーションサービスを選択する必要がある。レガシーなPBX(Private Branch eXchanger:構内交換機)は在宅勤務では用をなさず、「Zoom」や「Microsoft Teams」(Teams)が電話代わりに使われる。
テレワークの浸透で復権しつつあるのが光回線だ。これまでマンションへのインターネット利用では1本の光ファイバーを建物に引き込み、それをVDSL(Very high-speed Digital Subscriber Line)で各戸に分配するのが主流だった。名前こそ「Very high-speed」だが、各戸に向けて電話配線を使うので下りは最大100Mbpsに限られていた。さらに1本の光回線をシェアするので、在宅勤務が浸透し、同時に利用するユーザーが増えれば速度は低下する。
筆者が主宰する情報化研究会の会員であるNTT西日本の方によると、VDSL方式から各戸に光ファイバー(フレッツ 光ネクスト)を引き込む方式に変更するマンションが増えているという。これだと戸建てと同様、上り下りとも最大1G〜10Gbpsが期待できる。これが実現するとテレワークで使うPCもスマートフォンもWi-Fiで快適に使えるので5Gは不要になる。この方式を定着させるには企業側の制度化が望ましい。個人が支払う光ファイバーやインターネット接続料の一部を企業が負担すべきだろう。
ネットワークサービスは、広域イーサネットやIP-VPNといったWAN(Wide Area Network)サービスがセキュリティやモバイルなどのサービスをメニューとして追加することで発展してきた。ネットワークサービスのこれからのモデルを図2に示す。
企業がメインのネットワークサービスとして何を選択するかで、企業ネットワークの柔軟性や拡張性、運用性がほぼ決まる。ネットワークサービスを選択する上でのポイント、を図2の(1)〜(4)で示した。
企業が複数のクラウドやSaaS(Software as a Service)を使うのが当たり前になり、しかもそのトラフィックはネットワーク管理者の予想を上回る速さで増加することが多い。新たなクラウドサービスを素早く接続したり、急増するトラフィックに対応するため帯域幅を即時に増やせたりすることが望ましい。
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