携帯大手3社はMicrosoft TeamsとFMCを連携させたクラウド電話サービスに注力している。TeamsがあればPBXが不要になり、固定電話機がなくてもPCが電話機代わりになる。今後、PCは電話を飲み込んでしまうのだろうか?
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Microsoftが電話サービスを始めたのは新しいことではない。2010年に始まった「Lync」、2015年の「Skype for Business」、2017年の「Microsoft Teams」へと続いてきた。これらとFMC(Fixed Mobile Convergence、固定電話携帯電話融合サービス)が連携するサービスは以前からある。
だが、2021年7月31日にSkype for Businessのサービスが終了することもあり、2018年から2019年にかけてKDDI、ソフトバンク、NTTドコモはTeamsと連携したクラウド電話サービスを開始した。
Microsoftと通信事業者の狙いは「脱PBX(Private Branch eXchanger:構内交換機)」にある。いわばPC業界が通信事業者と一緒になってPBX業界を飲み込んでしまうということだ。果たして事は簡単に進むのだろうか?
TeamsとFMCが連携したクラウド電話サービスの構成イメージは図1の通りだ。チャット、ビデオ会議、ファイル共有などのコミュニケーションサービスを提供するTeamsの電話基盤がPBXと同様の機能を持ち、電話の発着信やPBX機能を実現する。プロトコルとしてはIP電話の呼制御プロトコル、SIP(Session Initiation Protocol)を使っている。
図1の左側の拠点のようにPBXがなくても電話の環境を構築できる。Teamsに対応し、イーサネットに接続するIP電話機のラインアップも用意されている。さらにPCやタブレット、スマートフォンにTeamsアプリをインストールすればソフトフォンとして電話機代わりに利用できる。社外から内線番号や0AB-J番号(03や06で始まる固定電話用の電話番号)を使って電話をかけることも可能だ。図1の右にあるように既存のPBXを接続し、内線相互通話もできる。
同じようにTeamsを使ってクラウド電話サービスを提供していても、KDDI、ソフトバンク、NTTドコモが訴求するメリットには違いがあって面白い。
KDDIは働き方改革に役立つというごく普通のメリットの他、「電話の運用を内製化」できる点を強調している。レイアウト変更が必要になったとき、PBX業者を手配する必要がなく、代表グループなどの電話機能の管理もユーザー企業側で完了することがメリットだとしている。ただしこのメリットには大いに疑問が残る。この点については後述する。
NTTドコモも自宅や出張先でPCやスマートフォンを使って社内にいるときと同じ電話番号を使った発着信ができることをメリットとして挙げている。特徴は「最終的には全面的なクラウド電話を目指すのだが、既存のPBXとの共存と緩やかな移行をサポートする」としていることだ。
ソフトバンクの主張は明快で既存のPBXとの併存など眼中になく、「PBXも電話回線の引き込みも、宅内工事も不要になる」ことを訴求している。特徴はPCやスマートフォンに固定電話用の0AB-J番号を付与できることだ。出張先でも使えるので、東京の社員が大阪から電話をかけると相手には03で始まる番号が発信元として表示される。
以前は固定電話用の電話番号である0AB-J番号には厳密な「地理的識別性」が求められていた。03や06などの市外局番は特定の区域に対応しており、固定電話はその区域内で使うことを求められたのだ。
しかし、2018年5月23日に公布された電気通信事業法の改正で地理的識別性の条件が緩和された。テレワークや在宅勤務といった働き方改革に対応するためだ。具体的には利用者の活動拠点が番号の示す区域内にあること、固定端末系伝送路設備の一端が利用者の活動の拠点に設置されていること、などを満たせば0AB-J番号が使えるようになった。
例えば、本社(活動拠点)が東京にあれば大阪(06エリア)に出張した社員がスマートフォンに割り当てられた03で始まる電話番号で発信し、相手にその番号を通知できる。
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