「プライベート5G」はスライシングという仮想化技術を使って企業専用の5Gネットワークをサービスとして提供するものだ。すでにKDDIが2020年12月からプライベート5Gの先取りともいえるサービスを提供している。コストと運用面の壁が高い「ローカル5G」よりもメリットが大きい。
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これまで何度か、企業が5Gを利用する際に注目すべき点を紹介してきた。結論から言えば「ローカル5G」よりも、「プライベート5G」の方が中小企業も含め、広い適用範囲を期待できる。免許が不要で設備投資も必要ないため、導入のハードルが低く、運用負荷も少ないからだ(連載第35回)。さらに内線電話、外線電話も使いやすい。
KDDIは2020年12月からプライベート5Gの先取りともいえるサービスの提供を開始した。今回はこのサービスについて紹介しよう。
KDDIのサービスは「au 5Gネットワーク」(4Gも利用可)とAmazon Web Services(AWS)が提供する「AWS Wavelength」から構成されている。5Gネットワークを仮想的に複数のネットワークに分けて使うスライシングは用いていないものの、プライベートIPアドレスを使うVPC(AWS上の仮想ネットワーク)に接続して使えるので、プライベート5Gの一種と見なしてよいだろう。企業ネットワークから見ればその一部として使えるからだ。
このサービスは5Gのセールスポイントの一つであるMEC(Multi-access Edge Computing)を実現する。企業が無線免許を取得することもなく、設備投資も不要ながら、プライベート5GやMECを簡単に利用開始できるのがこのサービスの良いところだ。
AWS Wavelengthの仕組みは図1の通りだ。「Wavelength Zone」というAWSのAZ(アベイラビリティーゾーン)と同様な設備をKDDI 5Gコアネットワーク内に置く。ここに「Amazon EC2」などを使ってシステムを構築できる。
端末からWavelength Zoneにアクセスする際、途中にあるのはKDDIモバイル網だけでインターネットを介さないこと、Wavelength ZoneがAWS 東京リージョンよりも端末に近い5Gコアネットワークにあることから、低遅延を実現できる。5Gだけでなく4Gでの利用も可能だ。2021年2月現在の5GはSA(Stand Alone)ではなくNSA(Non Stand Alone)だ。近い将来SAになるだろうが、NSAでもSAでもAWS Wavelengthには影響がない。
商用サービスに先立って複数の企業とトライアルを実施しており、幾つかのユースケースが公開されている。
例えば、オンラインゲームの開発を手掛けているTVTは5G接続でのゲーム参加者と4G接続の参加者を比較し、5GのRTT(Round Trip Time)が4G比で40〜50%に抑えられたという結果を得ている。データパケットの送信と確認応答の受信に必要な時間が短く、オンラインゲームで重視されるpingの応答時間が短くなった。また、ITソリューションプロバイダーのブレインズテクノロジーは、AIを使って工場内の異常を検知して通知するソリューションを試し、4Gと比較して5GではRTTが43%改善したという。
「KDDI 5G+AWS Wavelength」を企業ネットワークに適用するのは簡単だ。すでにAWSを使っている企業なら図2のような構成になる。その企業が使っているメインのネットワークサービスがKDDIである必要はなく、AWSさえ使っていればよい。
図2ではAGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)を5Gで接続する例を示した。Wi-Fiより安定した通信が期待できるだけでなく、工作機の動作と部材をセットするAGVのアームが低遅延で同期できるため、部材をセットする直前に工作機に異常が検出された場合でも即時にアームをストップして事故を回避できる、といった利点がある。
筆者はこの「KDDI 5G+AWS Wavelength」というサービスをプライベート5Gの先取りとしてとても面白いものだと歓迎している。ローカル5Gのような大きな初期投資が不要、免許もいらない。図2のようなネットワークを構成することも技術的には簡単だ。
しかし、実際に使う上では課題もある。
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