まずは事件の概要から見ていただきたい。
Jリーグの電子チケットシステムの設計、開発業務を受託したベンダーが、システムを完成させたとして、発注者に代金の支払いなどを求めた。しかし発注者は、ベンダーの開発したソフトウェアには不具合が多数あり損害賠償の対象となるとして裁判となった。
ベンダーは本件について発注者が契約で定めた期間内に検収を完了し結果を通知しなかったことはみなし検収に当たり、発注者には費用支払いの義務があると主張したが、発注者は、本件ソフトウェアには多数の不具合があるため、検収を中止せざるを得なかったのであり、みなし検収には該当しないと主張した。
補足すると、両者の間に結ばれた契約には、みなし検収の条項があった。
1. 甲は、乙より成果物の納入が行われた日から個別契約に定める検査期間(以下「検査期間」という)以内に、個別契約により定める当該成果物の明細、仕様などと当該成果物との整合性を検査し、適合するときには検査合格書に記名押印の上、これを乙に交付しなければならない。
2. 前項の検査により、不適合、過誤などの瑕疵(かし)(以下単に「瑕疵」という)が判明した場合には、甲は乙に対しその旨を直ちに通知の上、瑕疵の修補を請求するものとする。
3. 検査合格書が交付されない場合であっても、検査期間内に甲から書面、メールなどによる前項の請求などの異議の申し立てがないときは、検査期間の満了をもって検査に合格したものとする。
多数の不具合が存在するソフトウェアが納品されて、発注者は検収を打ち切ったが、明確な不合格の通知を出さずに検収期間が経過した。発注者は「この状態では検収作業は続けられない」と判断をしたわけだが、ベンダーからすれば、それは発注者の主観に基づく勝手な判断にすぎず、あまりにも一方的である。
本連載の読者はご存じの通り、ソフトウェアとは、どんなに完璧に作ったつもりでも多かれ少なかれ不具合が残存しているものだ。もしもたった1つの不具合も許されないのであれば、世のソフトウェアはほとんどが検収不合格になるだろう。多少の不具合があっても、まずはつつがなく業務に使える、あるいはベンダーが直ちにこれを補修して使える状態にできるのであれば、合格とするのが常識的だ。
もちろん、どんな不具合でも許されるわけではない。問題は「不具合の質と量が業務を行うのに耐え得るのかどうか」だが、この事件のソフトウェアの不具合はどれほど深刻なものだったのだろうか。
もう一つの問題は、発注者が勝手に検収活動を中止してしまったことだ。いくら自分たちは使えないと判断しても、検収は契約書でも約束した発注者の義務だ。検収をして不合格を出すならともかく、一方的に中止してしまうのは果たして正しい行いだったのだろうか。
裁判の結果を見ていこう。
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