民間人材の登用、標準ガイドラインや工程レビュー。政府は健全なベンダーマネジメントを行うためにさまざまな施策を行ってきた。だがしかし、1番大きな問題がまだ残っている。
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「政府の失敗に学ぶ、ベンダーマネジメントの勘所」。前編は、政府のシステム開発プロジェクトにおける、ベンダーマネジメント問題の歴史と類型、それらが起こるメカニズムを解説しました。
では、こうした問題について、政府、特に2021年8月まで政府のITガバナンスの中心的な役割を担ってきた内閣官房IT総合戦略室は、どのような施策を行ってきたでしょうか。後編は、健全なベンダーマネジメントを行うために政府が行ってきた施策と、今なお残る問題を解説します。
政府は2013年に「政府CIO」という制度を発足させました。IT総合戦略室の室長として民間人材を政府CIOに招聘(しょうへい)し、この人の下に最大時には約70人の政府CIO補佐官を配して、政府のIT戦略から開発、セキュリティ、プロジェクト管理に至るさまざまなガバナンスを効かせることにしたのです。この制度は2021年8月の政府CIO制度廃止に伴いなくなりましたが、役割自体は2021年9月に発足したデジタル庁に移しています。
政府CIO制度の下、政府は幾つかの施策を行いました。
まず、民間人材である補佐官たちが各府省に派遣され、システム企画や調達の支援をしました。具体的には行政職員が検討しているシステムの必要性の吟味から技術的な検討、諸条件や実現方式の精査、入札に当たってはその技術評価なども行いました。こうすることで、行政職員では分からない最善のシステム構成の選別、無駄な作業や構成の削減、真に必要かつ有用なシステムや機能の絞り込みなどを行うことを目指したわけです。行政職員にはない技術、知識やシステム開発に関する「相場感」のようなものを、民間のIT人材がフォローする形です。
これはベンダーマネジメントの意味でも効果のある施策でした。ベンダーにそれまでにはない緊張感を持ってもらう効果もありましたし、前回書いたリスクの引き出しや進捗(しんちょく)などの定量的な把握も可能になりました。ベンダーの状況把握ができるようになって、ベンダー作業の改善策もいろいろと話し合えるようになりました。
「話し合う」という意味では、まだ試行段階ですが「技術的な対話プロセス」が実施されるようになりました。これはITの調達前に、応札してくれそうなベンダー数社と、新システムの実現方式やリスク、業界動向などについて会話し、調達仕様書や要件定義書に生かしていこうというプロセスです。
前回書いたように、政府の担当者がベンダーと技術的な会話をしないことは、数々の問題を引き起こしてきました。補佐官やその他のIT人材が支援する中、行政職員がベンダーと技術について話し合うことは、確かな技術を用い、システム化の目的を達成するITを妥当なコストと期間で作り上げるために有効なプロセスになると期待されています。
政府は民間人材の活用に加え、政府全体で共通したチェック項目を確立して「工程レビュー」を行っています。調達時、プロジェクト開始時、設計時、納入時などに、プロジェクトのQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)に関するリスクやコストなどをチェックするのです。
CIO補佐官たちのプロジェクト支援は、個人の知見経験を生かしたものが多いのですが、工程レビューは、PMBOK(Project Management Body of Knowledge:プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)やCMMI(Capability Maturity Model Integration:能力成熟度モデル統合)の考え方も取り入れた、網羅的で総合的かつ客観的なレビューを目指しています(目指していると書くのは、無論、まだまだ改善の余地が大きいという意味です)。
このレビューは行政職員たちが行います。プロジェクトのリスク抽出やレビューやテストの十分性、要件と設計のトレーサビリティなどをチェックし、内容はベンダーにも知らされます。
これらをベンダー内部のプロセスではなく、発注者である政府がチェックすることで、ベンダーの緊張感醸成と作業品質の向上に役立ち、政府にもさまざまな気付きが生まれ、何をどこまでやればいいのか共に把握できるという安心感も生まれます。
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