わが子同然にかわいがってきた社員を奪われて、夜も眠れません。まあ、近いうちに事業譲渡するつもりだったんですけどね。
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ソフトウェア業界は労働の流動性が高く、エンジニアが転職や起業のために退職する例は非常に多い。より良い処遇、新しいキャリア、志向に合った仕事への集中などその理由はさまざまで、会社に不満がなくても転職するし、ふとしたキッカケや知人からの誘いに応じて新天地に羽ばたく例もある。
転職はエンジニアにとって未来への希望だ。だが、ある日突然貴重な戦力を失う会社にとっては、大きな痛手となる。特に中小規模のソフトウェア企業の場合、エンジニアの転職は、会社を存続の危機に陥れる非常事態ともなりかねない。
もしも大量の退職が1人の社員の勧誘によるものだとすれば、会社はその社員に対して、怒りの感情を禁じ得ないだろうし、損害の賠償を求めて裁判を起こすこともあるだろう。
今回紹介するのは、10人以上の同僚を誘って起業した元従業員(以下、被告従業員)の行動を、ソフトウェア企業(以下、原告企業)が不法行為であるとして訴えた事件だ。
職業選択の自由が認められている日本において、大量の引き抜きそれ自体は法に反する行為ではない。しかし、会社側が何を訴え、裁判所がどのように判断したのか、そして、そもそも誘われて転職した元従業員たち(以下、元従業員ら)は何が原因で転職を考えるようになったのか――。
転職を考えるエンジニア読者や、エンジニアを雇用する経営者読者にとって、それなりの教訓があると思う。
以下、事件の概要を述べる。
13人の技術者を抱える原告企業は、元従業員らをおのおの顧客企業に派遣をして作業をさせていたが、あるとき、被告従業員が12人の元従業員らの退職届をとりまとめて原告企業に提出した。その時期は原告企業代表者が、自社の株式を他者に売却して事業を手放す意思のあることを被告従業員および元従業員らに語った以降のことだった。
被告従業員および元従業員らは、原告企業から慰留はあったものの、結局は全員が退職し、被告従業員が設立した新会社に就職した。なお被告従業員は、これまで元従業員らが派遣されていた複数の顧客との間で新たに契約し、元従業員らは、それまで派遣されていた顧客での作業に継続して従事することとなった。
これについて原告企業は、これは被告従業員が元従業員らの退職意志を惹起(じゃっき)させた忘恩行為であるとし、不法行為による損害の賠償を求めて被告従業員に対する訴訟を提起した。
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