Intelが、同社から見てサプライヤーになっている会社のうち、優秀な会社を表彰する「The EPIC Supplier Program」が発表になった。よく知られている会社もあれば、そうでもない会社もある。日本の会社も意外と多い。どんなサプライヤーが表彰されているのか、筆者が気になった会社を紹介しよう。
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長引く新型コロナウイルス禍、そして戦争と、混迷を深める世界の中で「半導体は戦略物資」であることが常識になってきた。サプライチェーンの最上流に位置する半導体が無ければ民生の自動車や湯沸かし器から軍用品まで製造がストップしてしまうことが分かったからだ。
しかし、半導体製造にもサプライチェーンの上流がある。それもディープな技術でそうそう替えが効かないものが非常に多い。
そんな中、Intelが「The EPIC Supplier Program」というものの2022年の受賞社を発表した(「Intel Announces 2022 EPIC Supplier Program Award Recipients」)。「EPIC」といっても、最近聞かないIA-64(Itanium)が採用するアーキテクチャではない。正式名称は、「The Intel Excellence, Partnership, Inclusion and Continuous Improvement program」という長い名称だ。
ここでIntelは購買する側であり、Intelに製品を供給している会社の中から継続して改善している優秀社を3段階で表彰するプログラムである。Intelから見たサプライヤーの通信簿みたいなものだ。Intelは米国最大、そして辛うじてだが世界首位を維持した半導体メーカーである。その受賞社を見れば、半導体のさらに上流を垣間見られるに違いない。
表彰されている会社は40社以上ある。Intelから見てサプライヤーになっている会社は数千あるらしいから、ごく一部の優秀な会社だけが表彰されているとみてよいだろう。表彰は3グレードだが、本稿では金銀銅は問わず表彰された会社をザックリ調べてみたい。2020年の表彰(2021年の今ごろに発表されているので、実質的な前の回)と比べると、継続して表彰されている会社もあれば、表彰から消えたところもある。急に取引消滅するようにも思えないので、「評価は変わる」ということだろう。
半導体メーカーに対するサプライヤーといっても、少々ピンとこない方も多いだろう。そこで分かりやすくするために、勝手ながら3種に分類を試みた。
第1のカテゴリーは、半導体製造装置を中心として、前工程、後工程、テストなどの外注先やコンサルまで含めた半導体製造に直接かかわるサプライヤーだ。代表例は「先端半導体を製造するためにはASMLからステッパを買うしかない」とされるASMLである。製造装置という点では業界でよく知られたビッグネームが並んでいる(ビックネームとはいえ、一般には知られていないことが多い。NVIDIAやArmですら謎の会社扱いされたことを考えると仕方がないだろう)。そんな中にも、まだあまり知られていない会社が含まれている。第1のカテゴリーは、半導体に特化しているだけに替えが効かない技術が多い。
第2のカテゴリーは、人的リソースから建物を含む施設や設備、半導体工場での生産と流通を成り立たせる各種のお仕事である。もし半導体工場へ見学に行ったことや、テレビなどで見たことがあればご存じかもしれないが(そういう機会はあまりないだろうが)、巨大な半導体工場の建屋はかなり特殊な建物であり、中では防護服のようなものを着た表情を伺うこともできない人々が働いている。
物品を運ぶ機械がうごめき、ランプが光り、あちこちのモニターに何やら数字が映し出されている。それに配管やらタンクやら、半導体製造装置には分類されないがともかくいろいろな装置がある。たまに物流のトラックだって出入りすれば、警備もかっちりしている。カテゴリーとしては「施設、設備、各種サービス」といったらよいだろうか。ここに分類できる会社は結構特色のある会社も多くて個人的には興味を引く。しかし半導体の製造上、替えが効かないとまではいえないと思う。
第3の、今回特に見ておきたい分野が「部品、材料」とでも分類できるカテゴリーである。半導体の部品、材料といってすぐに思い付くのがシリコンウエハーであろう。
しかし、それ以外にも必要な部品や材料は多岐にわたる。製品に加工される材料だけでなく、装置内部で使われる部品(劣化するので交換が必要)や消耗品も数多くある。半導体分野の場合、ごみどころか、原子レベルで汚染を嫌う工程ばかりだから、消耗品といっても高純度で特殊なものが必要となることが多いのだ。最新鋭の高価な製造装置も消耗品がなければ止まってしまう。
聞いたことのない会社の何が重要だか分からない製品が、実は半導体工業の死命を制する物品である、ということはままあるのだ。
なお、装置ベンダーが装置に使用する消耗品や材料、サービスまで提供していることもある。第1のカテゴリーと明確に切り離せないケースも多い。分類には主観が入っていることをお許し願いたい。
さて勝手分類の第1カテゴリー、半導体製造装置、検査装置メーカーと製造外注先に分類できそうな会社を列挙してみる(順不同)。Applied Materials、Lam Research、東京エレクトロン、ASML、ディスコ、ニコン、KOKUSAI ELECTRIC、PSK、ASM International、Carl Zeiss SMTといったあたりは、製造装置ベンダーとしていつも挙がる名前なので、調べる必要もないだろう。レーザーテック、FormFactor、Keysight Technologiesは検査装置のベンダーである。検査といっても分野は広いが。
この分類の中で目をひいたのが、ギガフォトンだ。エキシマレーザー専業の栃木にある会社だ。小松製作所の子会社で非公開企業だが、エキシマレーザー業界の最大手である。高価な製造装置を買ってもレーザーなければ、ただの箱だ。これがないと困る会社は世界中に多いはずである。
また、この分類の中では組み立て外注と思われる2社がランクインしている。Siliconware Precision IndustriesとPowertech Technologyだ。いずれも後工程、パッケージ組み立てからテストまでできる会社だ。そして、どちらも台湾の会社である。
後工程で台湾の2社がランクインしている中で、2021年(2020年分)の表彰を受けた中で2022年は表彰を受けていない大企業があることに気付いた。前工程のTSMCである。数年前、IntelはTSMCに前工程を外注することを打ち出したから、その流れでの2021年の受賞であったのだろう。別に関係は続いているはずだから、2022年に表彰がないというのは、「Intelにしたら不満な部分がある?」と下衆のかんぐり。2021年あたり世界中からTSMCに注文が殺到していたから、Intelといえども満足する状況には遠かった、ということかもしれない。
おっと、一社抜けていたSynopsysは、半導体設計業界大手のツールベンダーである。設計は製造工程の上流にあるので第1分類でよかろう。
第2分類は雑多だ。筆頭はSecuritas、警備会社である。巨大で高価かつ機密の多い半導体企業に信頼されるだけのことはあるのだと想像する。
WiproとHCL Technologiesは、いわゆるオフショア、インドのソフトウェア開発会社だ。Capgeminiのようなコンサル企業も、Compass Group,NADも工場の稼働を支えるサービス業とくくれよう。
一方、箱もの、施設、設備に分類できるのはPEER Group、GF Piping Systems、村田機械、Skanska USA Building、JLLなどだろう。FA(Factory Automation)の村田機械と、不動産業(工場の立地に関係しているのか?)らしいJLLを一緒にして申し訳ない。ただ、第2分類はそれぞれの分野における優秀な会社であろうが、半導体の製造の死命を制するかといったら、違うといえるだろう。
2020年表彰にいて、2022年表彰で抜けているのが輸送関係の会社だ。新型コロナウイルスのせいで、物流ボロボロだったところが影響しているのかもしれない。
一社変わっているのが、Veolia ES Technical Solutionsだ。筆者は存じ上げなかったのだが、廃棄物の再資源化などやっている会社らしい。サステナビリティという観点からは必須か。
さて注目の第3分類だが、ここには日本企業が結構ある。その中でもフォトレジストの東京応化工業や、受動部品の村田製作所は業界大手だ。
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