第2作「TERMINATOR2」に登場する新型のターミネーター「T-1000」は、液体金属で覆われている。われわれが住む地球の環境では、液体に溶け込んでいる場合や水銀など一部の例外を除き、ほとんどの金属は常温では個体として存在する。では液体金属とは何だろうか。
現状でも幾つかの金属が液状で存在する。また、それを電気信号など用いて動かすことも研究されている。実際に中国とオーストラリアの研究チームがガリウムを材料に、電気信号で液体金属を制御する研究成果を発表している。研究者たちは「TERMINATOR2のT-1000にインスピレーションを刺激された」とも言っている。
ボディーの構造はどうなっているのだろうか。T-1000のボディーは、固まったり溶けたりを自由に繰り返す。刑務所の鉄格子をすり抜けたり、カマのようになった腕がちぎれても溶けて脚から戻ったり、ヘリコプターに穴を空けてもぐり込んだりするシーンがある。冷凍されて固まった後に砕けるが、火花で溶けて1つにまとまっていくシーンもある。一見、全てがリキッドのようにも見える。もし完全に個別にバラバラになるのだとしたら、プロセッサはどこに入っているのだろうか。
1つの仮説として、ある程度小さなコアのようなものがボディーの中心にあり、その周りを液体金属で覆うということが考えられる。「TERMINATOR3」に出てくる「T-X」(女性型ターミネーター)は、T-1000のようにリキッドメタルボディーを持つが、内部には骨格があり、プラズマ砲というものすごい強力な武器を装備している。加速器の磁力に張り付けになったときも、骨格の形状を維持したままだった。彼女(それ?)は、完全なリキッドのみではないらしい。
T-1000は、ほとんどばらばらになれるほど小さなクラスタと考えるならどうだろう。とても小さなコンピュータがあればできるかもしれない。コンピュータを小型化する研究は現在でもひそかに流行している。さまざまな研究があると思うが、筆者が直接目にしたのはIBMの花粉サイズコンピュータだ。
サンフランシスコのビジネスカンファレンスに出席したとき、先輩が小さなガラス瓶を取り出し「ここにあるの分かる?」と突然見せてくれた。瓶の底にフケのようなものが1つ。「それ何ですか」「世界最小のコンピュータ」
えっ?
大きめの血管なら流し込めるそうだ。とゆうか、そんな大切なもの、ポケットに入れて持ち歩いていいんですか……。あまりに小さ過ぎて「見た」と言えるかどうか自信がない。「30年前の某国産PCより性能高いよ」とのこと。その後、ミシガン大学がさらに小さいものを発表している。
このような超小型のコンピュータの周りに液体金属と制御装置をまとわせ、たくさんのユニットが協調動作するようにしたら、T-1000のようなロボットが作れるかもしれない。
たくさんの機器が自律協調動作するものとして、空を舞うドローンがさまざまな映像を作り出す様子を東京オリンピックなどで見たことがあるだろう。ああいった制御だ。1つの液体金属クラスタが、直径1センチ程度まで分割できるようにすれば、映画の映像のような動作をするかもしれない。
ところで、TERMINATOR1の設定ではタイムトラベル装置は生き物しか送れないとあった。メタルボディーはもはや生態ではないと思うのだが、転送装置もバージョンアップしたのだろうか。ならば裸で来る必要がある?……などというツッコミはやめておこう。
現代の研究はまだまだだが、液体金属と超小型コンピュータの研究が進められている。協調動作でT-1000のようなものが将来登場するかもしれない。
「ターミネーター」を、2022年のテクノロジーで解説するシリーズ、後編では、「TERMINATOR3」の無人カーや「TERMINATOR4」のモト・ターミネーターを解説する。
米持幸寿
Pandrbox代表・音声対話インタフェース・プロデューサー
博士(システム情報科学)
日本IBM、ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパンをへて現職。
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