調査会社ABI Researchが、「5G」のこれまでの発展と、5Gの進化形となる「5G Advanced」の詳細な分析をまとめたホワイトペーパーを公開した。6Gについても触れている。5Gはほぼ消費者向け市場に限って受け入れられており、5G Advancedは企業向け市場に役立つ機能が盛り込まれる見込みだという。
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調査会社ABI Researchは2022年7月14日(米国時間)、高速な通信が可能な「5G」のこれまでの発展と、5Gの進化形となる「5G Advanced」の詳細な分析をまとめたホワイトペーパー「Is the Industry - and the World - Ready for 5G Advanced?」を公開した。
このホワイトペーパーは、「5G技術が消費者市場と企業市場の両方で、新たなビジネス機会を生み出すという約束を十分に果たしていない理由」に続き、「5G Advancedへの進化」「5G Advancedの主要機能と期待されるユースケース」「5Gの将来の成功に不可欠な5G Advanced」「通信会社と一部の業界に対するABI Researchの戦略的な推奨事項」について論じている。
以下では、その中から「5G Advancedのサービス開始時期と5Gの現状」「5G Advancedで期待されるマイルストーン」「5G Advancedがもたらすビジネス機会」「5G Advancedの商用化と6Gへの道」を取り上げて紹介する。
5G Advancedは、無線技術の標準化団体3GPPが策定する5G標準仕様の「Release 18」以降で規定される予定だ。ABI Researchは5G Advancedの商用サービスが、Release 18仕様の凍結予定日の2年後となる2025年に開始されると予想している。
2030年までに消費者向けのパブリックネットワークでは、5G基地局の75%が5G Advancedにアップグレードされる見通しだ。その内訳は無線アクセスが7600万台、マクロベースバンドが2300万台、スモールセルが1300万台だ。企業向けネットワークでは、5G Advancedの導入はより遅いペースで進み、2030年までに半数(1400万台)のスモールセルが5G Advancedにアップグレードされると予想されている。
こうした動向は、これまでの5Gの目覚しい進化と、残念な状況の両方を示している。5Gは、スピードと容量の前例のない向上により、3Gや4Gなどの移動通信システムの世代において、既に最も急成長しているといえる。だが、成長のほぼ全てが消費者市場に集中している。5Gの現在の価値提案では、企業はサービスを十分に享受しておらず、企業市場に5Gを浸透させるのは困難だ。
5Gの導入開始から3年が経過した今、5G技術と業界は岐路に立たされている。5Gによる変革を実現し、市場を拡大して収益向上につなげるためにはどうすればよいのか。通信事業者はデータプランとSIMカードの販売にとどまらず、新しいユースケースの実現と企業へのメリット提供に真剣に取り組まなければならない。
そのための鍵となるのが5G Advancedだ。5G Advancedは、企業における展開とイノベーションに適した機能とツールを提供する。その中には高精度の5G測位、インフラに依存せず端末のみでつながる高度なサイドリンクデバイス間(D2D)通信の他、IoT向けの手ごろで柔軟な「Reduced Capability New Radio」(RedCap)、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、ARやVRなどを含む「Extended Reality」(XR)についてさまざまなユースケースのサポートなどが含まれる。
だが、通信事業者の間で、5G Advancedの活用態勢ができているかどうかは不明だ。現時点の5Gの最終形であるSA(Stand Alone)はほとんどブレークしていない(4G基地局を用いるNSA:Non Stand Aloneが主流)。LTEネットワーク基盤(4G基地局)を全く使わないSAでは、サービスベースアーキテクチャ(SBA:サードパーティーに公開されるマイクロサービス、API、機能を用いてコアネットワークが構成、展開される)が導入された。
国全体に展開を開始した事業者はほんの一握りにとどまり、ほとんどのSAの立ち上げは、革新的なユースケースよりもネットワーク効率に重点を置いている。
5G Advancedでは、5Gで使われている「Massive MIMO」(mMIMO)や「アップリンクカバレッジ」「Dynamics Spectrum Sharing」(DSS)、「Integrated Access Backhaul」(IAB)が改善される。
最も重要なことは、5G Advancedが、ユースケースベースのネットワークサポートの継続的な強化に重点を置くということだ。実際、5G Advancedの仕様には、既存の5Gフレームワークでは不可能だった新しいユースケースやビジネス機会の創出を可能にすると思われる、多くの変革的な機能が統合される。
新仕様により、エコシステム全体、特にモバイル通信事業者が新たなビジネス機会を利用できるようになる。新仕様はモバイル通信事業者による全く新しいアプリケーションやサービスの商用化に役立ちそうだ。例えば屋内外での精密測位、新しい公共安全サービス、XR、サイドリンク強化と「サイドリンクリレー」によるD2D通信などが含まれる。
また5G Advancedは、スマートフォン以外の新しいカテゴリーのユーザー機器(UE)に5G接続を拡張する。UEとしてはウェアラブルデバイスやドローン/無人航空機(UAV)、監視カメラ、マシンビジョンカメラ、巨大IoT、パッシブIoTデバイスなどがあり、多岐にわたる。ただし、こうした5G Advancedの全機能が市場に登場する時期は不明だ。
一方、5G Advancedには、次世代のビジョンに近づくためのトピックも幾つか含まれている。例えば、ネットワークとデバイスの両方をカバーする完全なエンドツーエンド(E2E)自動化への出発点となるRAN(無線アクセスネットワーク)やエアインタフェースへの人工知能(AI)/機械学習(ML)の適用がそうだ。RANは、基地局とそのサービス範囲となるセルなどから構成され、エアインタフェースは、デバイスと基地局の間の部分を指す。
5G Advancedでは、AI/MLアプリケーションに不可欠なフレームワークがRANに導入される。このフレームワークには、データ収集の強化や省エネ、負荷分散、モビリティー最適化のためのシグナリングサポートが含まれる。また5G Advancedでは、エアインタフェースのためのチャネル状態情報(CSI)フィードバック、ビーム管理、測位を改善するAI/ML技術も開拓される。
さらに、5G Advancedでは、長期的に持続可能な未来を見据え、システムレベルのネットワークの省エネルギーを、さまざまな導入シナリオ間で比較、測定可能にする評価手法も定義される。同時に、主要なネットワークシナリオのための省エネルギー技術も導入される。
5G Advancedは携帯電話規格を漸進的に進化させるだけでなく、企業向けアプリケーションに大きな価値をもたらすことを目指した根本的に新しい機能も導入する。
例えば、将来的に1センチ未満の精度を目指す測位機能の改善や、オンプレミス展開においてより柔軟な展開アプローチを可能にするサイドリンクリレーの実現、D2D通信によるネットワーク範囲の拡張などだ。
また5G Advancedは、クルマとモノをつなげるV2X(Vehicle to Everything)にとどまらず、サイドリンクを一層、強化する。スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスやスマートアクセサリー、監視カメラやマシンビジョンカメラ、AR/VRデバイス、大規模なパッシブIoTデバイスなど、電力供給が限られる多くのデバイスに5G機能を拡張し、企業市場と消費者市場の両方で資産追跡を助ける。
5G Advancedは業界が6Gへの移行準備を整えるための重要なマイルストーンだ。6Gでは、分散型インテリジェンスや物理世界と仮想世界の融合、ネットワーク全体におけるAI/MLの完全活用に焦点が当てられる。
現在議論されている幾つかの6G技術の1つが、周波数をアップリンク(UL)とダウンリンク(DL)の両方で再利用すると、各リンクの容量が2倍になる全二重伝送だ。5G AdvancedのRelease 18仕様では、全二重伝送の実現に向けた実装も検討される。
もっとも、6Gについては、2025年に業界で要件の議論が始まり、その数年後に仕様が凍結される見通しであり、先が長い。次の図は、今後予想される3GPPの仕様策定と通信事業者のサービス開発スケジュールを示している。
5G Advancedは、次世代モバイルブロードバンド(MBB)の基盤であり、6Gの舞台を用意する。前述したように、多くの新しい技術や機能が開発されており、これらにより、企業にとって新しいタイプのユースケースやアプリケーション、価値が生み出されるだろう。サイドリンクの強化、サイドリンクリレー、精密測位、RedCap、XRや高度なマルチメディアアプリケーションの本質的なサポート、モバイルネットワークにおけるAI/MLの使用が、携帯電話ネットワークの機能を消費者向けから企業向けへと徐々にシフトさせていく。
4Gがアプリケーションストアやソーシャルネットワーク、コラボレーション経済の創出に道を開いたように、これらの技術を使うことで、われわれにとって予想もできなかった用途が登場し、企業分野におけるネットワーク効果の源泉を生み出す可能性がある。
5G Advancedが実現するこれら全ての新機能を幅広い企業が活用できる。モバイル通信事業者は、企業市場に参入するための新たなパートナーを求めており、5G Advancedは、こうした市場展開を開始するための基盤となる可能性がある。5G Advancedは、6Gが5G Advancedと5Gの基礎の上に構築されるまで、今後何年にもわたってモバイルネットワークの主流となる見通しだ。
5G Advancedがもたらす機能強化の中には、特に企業分野で新しい方向性を示すものがある。そのため、5G Advancedから最も恩恵を受けるのは、既存のバリューチェーンの企業ではないかもしれない。5G測位、RedCap、サイドリンクは、デバイス接続とネットワーク使用の新しい方法を提示しており、新しいユースケースやアプリケーションの実現につながる可能性がある。新しいエコシステムの形成を促すと予想される。
だが、モバイル通信事業者がこれらの革新的な5G Advanced機能とユースケースの市場導入において、どんな役割を果たすか、また、それらを収益化するためにどんなビジネスモデルを展開するかは、明らかではない。これは企業市場ではより顕著だ。市場破壊を約束する新規参入者はもちろん、企業市場での5Gや5G Advancedの導入障壁を下げる可能性がある新しい実装パラダイムの創出を約束する新規参入者は、多数に上ると予想される。
オープンな無線アクセスネットワークである「Open RAN」は企業市場における5Gの新たな実装の扉を開きそうだ。そうなれば、専門のシステムインテグレーターや、さらにはチップセットサプライヤーまでもが、企業市場へのインフラ供給の主要プレーヤーとなるかもしれない。「Radio Intelligence Control」(RIC)と「サービス管理オーケストレーション」(SMO)の登場は、サードパーティーのアプリケーション開発者や専門ベンダーが、自社アプリケーションやサービスを5Gネットワークに組み込むための新たなビジネス機会を開く可能性がある。
こうした展開により、5G測位やRedCap、XRアプリケーション、サイドリンク強化、サイドリンクリレーアプリケーションなど、多くのユースケースを含む5G Advanced機能の市場投入が加速すると予想される。
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