院卒、米国帰りのエリートは悩みや挫折なんて無縁でしょ?教えて、キラキラお兄さん(3/3 ページ)

» 2022年08月01日 05時00分 公開
[高橋睦美@IT]
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挫折はしょっちゅう、大事なのは「どうやったら挽回できるか」

 学生時代に出会ったマルウェア解析というテーマを継続し、セキュリティという仕事に携わり、米国での業務経験も持つ糟谷さん。経歴を見ると順風満帆に思えるが、本人からは「挫折みたいなことは、もうしょっちゅうです」と、意外な言葉が返ってきた。

 「常に底辺をはいつくばっている感じでした。もう下に落ちることはないから、やれば上にしか行かないよねという感覚で、何とかそこからはい上がってきました。たぶんこれからもそうだと思います」

 例えば、大学生で研究室に入ったときには、自分はプログラミングもまだおぼつかない一方で、同じ研究室には「この人たちには100年やってもかなわない、というような人たちがゴロゴロいました」という。社会人になっても、そして米国に行っても、常に飛び抜けて優秀な人たちが近くにおり、常々「自分はこういった人たちにはなれない」と感じていたそうだ。

 そこで糟谷さんはどうしたのか。「別に、この人たちと真正面から戦う必要はない。違うベクトルで、自分のやりたいことをやってそこで活躍できればいいと考えることができました」(糟谷さん)。かつて指導教員からもらった言葉を糧に、失敗に直面したら1つのことにこだわり続けるのではなく、その都度方向を修正していった。

 「だめだったときに、どうやったらそれを挽回できるのかを考えていくことが必要なのかなと思います。リカバリーできなかったらできなかったなりに、何かはできると思います。ほとんどの人は、大きいか小さいかは別として、どこかしらでつまずくことがあると思うので、そこで大けがしないようにつまずくというか、つまずいたら次はどうすれば転ばないかを学び続ける必要があるのだろうなと思っています」

リソースも豊富な現在、セキュリティに興味があればまず一歩を

現在の糟谷さん セミナー登壇も重要な仕事の一つだ

 昨今の状況を踏まえ、サイバーセキュリティの世界で活躍したいと考える学生や若手エンジニアが増えている。そんな人たちに対し糟谷さんは、インターネットで調べてみたり、有償のトレーニングを受講してみたり、あるいは勉強会に参加してみたりと、「まずは行動を起こすこと」を勧める。

 「私が学生だった当時に比べ、いまはいろんな手段があります。セキュリティをテーマにした研究室もたくさんありますし、仕事という意味でも、セキュリティの人材を欲しがる組織が増えてきていますから、道はあります。勉強してみたいのなら、何でもいいので自分がアクセスできる媒体にアクセスし、勉強してみるのがいいと思います」

 一度そういったところに顔を出し、話を聞いてみれば、雰囲気や実感がつかめる。うらやみながら行動を起こさずにいるよりも、一度飛び込んで自分に合うか、合わないかを感じてみる方が話が早い。「せっかくこれだけ間口が広がっているのだから、何も行動しないのはとてももったいないと思います。何でも良いからまずは飛びついてみてはどうでしょうか」とアドバイスする。さらに英語を勉強すれば、得られる情報源が増え、世界が一気に広がるという。

 糟谷さん自身は、これからマルウェアをハンティングするハニーポット的な基盤の構築、拡充に取り組んでいく計画だという。

 「あるマルウェアに感染すると別のマルウェアにも感染すると言われていますが、実際はどうなのか、具体例を知りたいと前々から考えていました。その実態を一つ一つ明かしていくためにハンティングの基盤が必要だと考え、いろいろなマルウェアに対してそれを広げていきたいと思っています」

 ただ、1人で開発し続けることには限界も感じているという。

 「今まで10個くらいそうした基盤を作ってきましたが、自分だけではどうにもならない限界を感じています。基盤を整備したり、よりディープに調べたりしていくために、いろいろな人の技術を借りながら分業できたらいいな、そうすればより楽しい世界があるのかなという気がします」

 ただし、大学などに戻ることはいまの時点では考えていないそうだ。「アカデミックな世界はアカデミックで面白い環境があると思いますが、こういう会社にいると、リアルな事例が目の前に飛び込んできます。同じくらい刺激的で、見劣りしない環境があるため、今はこちらの世界に身を置いて解析をしていきたいと考えています」と真っすぐな目で語る。もちろん、いつか考えが変わるときが来るかもしれないが、それはそのとき。今は目の前の仕事に専念していくつもりだ。

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