グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回もトリニティのThidar Win(ティダーウィン)さんにご登場いただく。日本に来て困ったことは「日常会話」と「日本の慣習」だった。
国境を越えて活躍するエンジニアにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。今回もトリニティでポイントサービスの開発、運用に携わるThidar Win(ティダーウィン)さんにお話を伺った。言葉の壁や独自の習慣などに苦労するも、持ち前の前向きさで困難を克服するティダーさんの将来の夢とは。
聞き手は、アップルやディズニーなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広。
阿部川 “Go”久広(以降、阿部川) 2016年にユニバーサルコムピューターシステムに入社されます。
Thidar Win(ティダーウィン、以降ティダーさん) はい。その会社では大学の先輩たちも働いていたし、就職1年目は先輩たちと一緒に暮らすという条件もあったので、家族も安心していました。
阿部川 日本はいかがでしたか?
ティダーさん 楽しかったですね。友達とも一緒だったので、土日はいろいろなところに行きました。お花見の時期に桜がきれいなところに出掛けたり、スカイツリーや遊園地、動物園に行ったりしました。あと日本って、おしゃれなカフェが多いじゃないですか。だからカフェにもよく出掛けました。
阿部川 日本で暮らしていて何か困ったことなどはありましたか。
ティダーさん ありました。日本の習慣って教科書に載ってないんですよね。例えば「予約制」です。ミャンマーには予約という概念があまりなくて。今でも覚えているのは、仕事帰りに髪を切りたくて美容院に行ったとき、他にお客さんがいないのに、「予約していないからダメだ」って言われたのです。
阿部川 日本では何でも予約してないといけない、ということが分からなかった。
ティダーさん はい。最初は本当にびっくりしました。
阿部川 確かにそんなこと教科書のどこにも載ってないですもんね。仕事で困ったことはなかったですか。
ティダーさん やはり日本語ですね。大学で4年間日本語を勉強したとはいえ、毎日日本語しかしゃべらない環境は初めてです。入社して3カ月間は日本人と同じ研修を受けたのですが、1日に少なくとも100ページぐらい進んでしまうので、追い付けなくて泣いたこともありました。
日本語をもっと上達させないといけない、と思って、日本の音楽や映画をひたすら鑑賞しました。映画で分からないことが出たら、ちょっと戻ってもう1回見たり、音楽なら歌詞を探して、調べて、分からない言葉は、調べて覚えたりしていました。それで、しばらくしたら、普通に会話できるようになりました。
ご本人は大変朗らかな方なのですが、こうしたお話を聞くと、ガッツがあるといいますか、内に大きなパワーを秘めていると感じました。何かにつまずいたときに、例えば誰かにいら立ちをぶつける人もいれば、ただただ自省する人もいます。けれどティダーさんは「次はこうしよう」とすぐに前を向く人なのだと思います。ちなみにそのときのことを「日が沈んでいて、ちょっと時間がかかりそうな雰囲気だった」としっかり覚えていたので本当に印象的だったのでしょうね。
阿部川 そのときに見たり聞いたりした映画や曲のタイトルは覚えていますか。
ティダーさん 当時は「西野カナ」さんの音楽を結構聞いていました。映画は『君の膵臓をたべたい』とか、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』とかです。
阿部川 話題になった映画ですね。その経験は着実に生きていると思います。今お話をしていて全く違和感がありません。勉強の仕方が良かったのですね。
阿部川 ユニバーサルコンピューターシステムでは、どんな仕事をしていましたか?
ティダーさん 1年目はOJT期間なので、トレーナーの指導の下で、プログラミングの単純なコーディングや修正、テストをやりました。OJTが終わってからは、他の人と同じレベルの開発作業、コーディングやテストを普通にやって、2年目、3年目もそんな感じでした。その後、サブリーダー的な仕事をやりました。
忘れそうになりますが、ティダーさんは「日常会話はまだ厳しい」という状況でのスタートでした。そこから程なく、他の日本人社員と一緒に仕事をするってかなりの成長だと思います。大変努力されたのですね。
阿部川 プログラミングは入社されてから勉強したのですか。
ティダーさん プログラミングの勉強は、IT業界でやっていくと決めたときから始めていました。ミャンマーにいたときからですね。ミャンマーは、大学最終年の試験が終わってから結果が出るまで半年ぐらいかかり、卒業までさらに半年から1年ぐらいかかります。その間に本格的な勉強を始めました。
阿部川 勉強はどんなふうに進めたのですか。
ティダーさん いきなりプログラミングから。「Java」を学びました。
阿部川 ああ、それは素晴らしいですね。いきなりプログラミングをやるのが1番いいと私は思います。そしてコンピュータサイエンスはその後に学べばいい。これを反対にやるので、みんな大変になるんですけど。現実的な言語を知っている上で知識を付け足した方が、PCのことはよく分かると思います。そう考えると、ティダーさんは非常に順当な勉強の仕方を、ここでもしているなあと思いました。
編集鈴木 プログラミング学習の話が出たので聞きたいのですが、大学を卒業してすぐに働く場合、ミャンマーの場合、学習はいつするのでしょうか。日本は一括採用なので、エンジニアの勉強をしてこなくてもエンジニアとして採用されることがあるのですが。
ティダーさん 私の場合、ひそかに勉強はしていましたが、IT未経験として採用されました。ただそれは日本の企業だったからで、未経験でミャンマーの企業に就職するのはちょっと厳しいかもしれません。プログラマーとして仕事をしたいのであれば、入社前に、ある程度経験がないと、ちょっと難しいです。ミャンマーでは、ほぼ全員が、自分がどんなキャリアでやっていくのかを決めて、大学の試験が終わってから表彰式までの間に学習するのが普通です。学生の間にインターンで働くこともします。
編集鈴木 ティダーさんもインターンをしたのですか。
ティダーさん はい。日本の人材紹介企業にインターンで行きました。
編集鈴木 当時はそういう仕事に興味あるかもって思っていたんですか。
ティダーさん そのときは仕事内容よりも、人材紹介なら仕事の種類をいろいろ知れるし、日本人と交流できる機会が欲しいと思いました。
編集鈴木 なるほど、そういう観点でもインターンの行き先を選ぶのですね。
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