生成AIをビジネス利用しようとしている企業は多いだろう。市場にはさまざまなサービスがあふれているが、「うまく使いこなせないかもしれない」「一時的にしか使わないのでは」といった懸念を持つ人もいるだろう。本稿では、AWSのセミナーを基に、継続的に生成AIを活用するためのヒントを探る。
アマゾン ウェブ サービス(以降、AWS)は生成AI(人工知能)への投資を続けている。生成AIを利用するためのサービスだけでなく、生成AIを開発するための機能、生成AI向けの独自チップ開発、生成AIを活用するためのトレーニングなどその支援は多岐にわたる。
AWSは2024年2月22日、AI/ML(人工知能/機械学習)に関するオンラインセミナー「AWS Innovate AI/ML and Data Edition」を開催した。オープニングセッションでは「生成 AI による持続可能なイノベーションへ向けて」と題し、生成AIへの取り組みを継続してイノベーションを実現するための方法が紹介された。
生成AIによってイノベーションを実現させるためのアプローチはさまざまだが、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS Japan)の鮫島正樹氏(AI/ML事業本部 シニアソリューションアーキテクト 部長)は例示として「データによる差別化」を挙げる。
市場には既にさまざまな生成AI関連サービスがあり、「質問を投げ掛けると何かしらの回答が返ってくる」といった仕組みは当たり前のように実現できる。だが、その回答はあくまでも汎用(はんよう)的なもので、「ビジネスや顧客の情報を考慮した回答は得られない」と鮫島氏は指摘している。
「そういった『汎用的な生成AI』がビジネスや顧客のことを踏まえた回答ができれば、もっと活用しやすくなる。例えば『生成AIの基盤を構築したい』とユーザーが質問した際に『このユーザーは過去にAWSについて聞いていた』『AWSにはAmazon Bedrockという生成AIのサービスがある』などの情報を生成AIが持っていれば『AWSを使っているのでAmazon Bedrockが適している』などとパーソナル化された答えを得られる」
このようにユーザーの意図する情報を的確に答えさせるためには、生成AIにどのようにデータを反映させるかが鍵になる。その方法はさまざまだが、鮫島氏は代表的な方法として「プロンプトエンジニアリング」「検索拡張生成(RAG)」「ファインチューニング」「事前学習」の4つを挙げる。
プロンプトエンジニアリングとは、入力(プロンプト)に役割や制約など補助的な情報を追加し、意図した出力を得る方法だ。例えば、ユーザーが機械学習基盤の具体的な構築手順が知りたかったとする。汎用的な生成AIに「機械学習基盤の作り方を知りたい」とだけ質問すると「まずはビジネスのニーズを理解することが重要で……」などと意図しない答えが返ってくる可能性が高い。
そこで「あなたはAWSのソリューションアーキテクトです。質問に対し、AWSでどう実現できるかを答えなければなりません。質問は機械学習基盤の……」といったように入力することで出力を制御できる。
制約を決め打ちで指示するので入力のノウハウが必要になるが、特定業務や要件に合った回答を得たいときに適しており、汎用的な生成AIの基盤モデルをそのまま使うのでコスト面でメリットがある。
RAGは入力(プロンプト)に対し、プロンプトエンジニアリングと同様に補助的な情報を追加して出力の精度を上げる方法だ。プロンプトエンジニアリングは「こういう役割で、こんなふうに答えて」といったように決め打ちするが、RAGは実際のドキュメントを参照、検索させ、その検索結果に基づいて回答させる点が異なる。
鮫島氏は「プロンプトエンジニアリングよりリッチな情報を持っているので、ユーザが求める結果を得やすい」と説明している。参照したドキュメントも明らかなので、後から答えが合っているかどうかも確認しやすい。また、ドキュメントが更新されれば、結果が最新になることもメリットだ。
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