TechTargetは「AI開発者としてのキャリア」に関する記事を公開した。キャリアを変えようと考えている開発者にとってAI(人工知能)分野は真剣に検討する価値がある分野だ。
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TechTargetは2024年5月20日(米国時間)、「AI(人工知能)開発者としてのキャリア」に関する記事を公開した。AI技術は急激に進化している。そのため、最先端の技術を扱いたい、技術革命に貢献したいと考える開発者にとって魅力的な分野となっている。
本稿では、ソフトウェア開発のキャリアの軸足を移し、AIに重点を置きたいと考えている開発者に向けて、キャリアパスの選択方法やスキルの磨き方などを紹介する。
AI分野は常に最新の情報を把握する必要がある。それを「やりがいがある仕事だ」と感じるなら、AI開発者のキャリアを考えてもよいだろう。ただし、キャリアを変える前にそれぞれのキャリアの長所と短所を把握する必要はある。
AI分野のキャリアは無数にある。投資銀行JPMorgan Chaseのサンディヤ・スリーダラン氏(エンジニアリングプラットフォーム、エクスペリエンス グローバル責任者)は、次のような選択肢を提示している。
予測や複雑なプロセスの自動化を目的としたMLモデルやアルゴリズムを構築する
ソフトウェアエンジニアリングスキルを生かし、データの分析と解釈を実施し、“データに基づく意思決定”に必要な情報を取得する
基盤モデルの構築方法を探求するとともに、業界全体でAI技術の応用と進歩を研究する
AIを使ったアプリケーションを開発する。例えばオープンソースモデルやディプラーニング(深層学習)アルゴリズムに基づくチャットbotを開発する
AI技術を活用した製品開発プロジェクトを管理する。厳密にはエンジニアリング職ではないが、技術開発には欠かせない職務だ。スリーダラン氏は「開発者がモデルやアルゴリズムを構築する場合でも、大規模データセットを解釈して洞察を集める場合でも、そのアプリケーションには消費者やエンドユーザーが関わるため、AI技術の進化を伝える製品管理が必要だ」としている。
AIに関する専門知識を生かし、企業のAI導入を支援する。スリーダラン氏は「AIに関する確固たる基盤を持つことで、プロセスの速度を上げる方法や革新的なソリューションを実現する方法についてのコンサルティングが可能になる」と語る。
スリーダラン氏によると、AI分野で働くには次のような知識やスキルが必要だ。
IT運用管理ソフトウェア「ManageEngine」の開発企業であるZOHOのランプラカシュ・ラマムルティ氏(AI研究担当 研究責任者)は「AI分野の職務への転職を目指す開発者にとって分析スキルが特に重要だ」と語る。同氏の部門では、データサイエンティストやAIエンジニアの採用において、エンジニアリング、コーディングのスキルに加えて分析能力の評価に重点を置いているという。
「エンジニアとして“分析的な考え”を持つことが大切だ。それこそが、一般的なソフトウェアエンジニアと、AI分野に転職する準備ができているソフトウェアエンジニアの違いだ」(ラマムルティ氏)
言うまでもないが、AIを支える原動力は「データ」だ。そのため「大量かつ高品質のデータセットへどのようにアクセスするか」はAI分野で解決すべき課題の一つだ。
スリーダラン氏は「歴史的に見ても、構造化データはリレーショナルデータベースなどによって管理されている。一方、ソーシャルメディアネットワークなどから生じる非構造化データは品質がばらばらで、低い品質のデータがAIに含まれると、生成するデータにバイアス(偏見)が持ち込まれる可能性がある。これは、AIを扱う際に直面する大きな課題の一つだ」と指摘している。
セキュリティの課題もある。コストの問題からオープンソースAIモデルを利用する企業はあるが、スリーダラン氏は「そうしたモデルにはセキュリティとプライバシーを侵害する特定の脆弱(ぜいじゃく)性が含まれる可能性がある」と注意を促している。また、構築方法が不明確で、実際にどの程度安全かを見極めるのが難しいAIモデルもあるという。
AI技術の進化スピードにどう追従するかも課題だ。スリーダラン氏は「AI技術の進化の速度はあまりにも速く、ついて行くのは大変だ。この課題を克服するには、独創的な方法を考え出す必要がある」と語る。
AI分野で働くに当たっては、課題も重要だが「やりがいを感じられるかどうか」も重要だ。
スリーダラン氏は、AI分野で働くメリットとして「AIによって、開発者やエンジニアが面白いと思う仕事に集中させられること」を挙げる。
「ソフトウェアエンジニアにとってAIのメリットは、単調な反復作業が削減または排除できることだ。特に生成AIは、そういった“やらなければならないが、やりがいを感じられない単調な仕事”を自動化する。その結果、開発者やエンジニアは、空いた時間を複雑な課題を解決する有意義な仕事に振り向けられるだろう」(スリーダラン氏)
「私がチームに伝えているのは、『AIの提案を受け入れて終わりにするのではなく、AIが提案するものから始めよう』ということだ。AIの提案を出発点に、その後、開発者自身のノウハウを加えていくのがいいだろう」(ラマムルティ氏)
AI人材の需要は高いことから、選択肢は無数にある。その中には、給与や福利厚生などの待遇面が魅力的な仕事があるだろうとスリーダラン氏は話す。
「何より、AIは違いを生み出すチャンスを提供する。ソフトウェアエンジニアにとって最もやりがいを感じられるのは、創造性を発揮してインパクトのあるソリューションを構築することだ。それは、金銭的報酬や何らかの種類の才能を得るという見返りをはるかに上回ると考えられる」(スリーダラン氏)
AIを巡る議論の中には、AI技術によってソフトウェア開発やエンジニアリングなどの職務がなくなるといった意見もある。だが、この意見についてスリーダラン氏とラマムルティ氏は「業界ではこれまで以上に複雑なタスクや目標を達成することが求められるため、AIによってコーディングプロセスの速度が上がるとしても、開発者やエンジニアの職務は必要だ」と考えている。「AIはエンジニアに取って代わるのではなく、エンジニアの生産性を高めるものだ」というのがラマムルティ氏の見解だ。
キャリアチェンジを考える際に重要なのが、転向したキャリアで働こうとしている転職先企業が、AIをどのように捉えているかを把握することだ。その企業がAIをソフトウェア開発部門やエンジニアリング部門などの人材を削減するために使うのか、それとも、自社の人材の能力を高めるために使うのかを確認すべきだ。
「大切なのは、AIであろうとなかろうと、転向した先がイノベーションや創造性の文化をどのように育てようとしているかだ」とスリーダラン氏は話す。創造性やイノベーションを優先する企業は、次のような取り組みを実現しようとしているか、既に実現しているはずだという。
「『AIがエンジニアの数を減らすかもしれない』と考えるのではなく『AIはエンジニアの仕事を助ける』という仮説を出発点とすべきだ。どの企業も自社の顧客にとっての価値が高まることを願っており、適切な文化を育む企業の大半はその願いを前提にAIを活用している」(スリーダラン氏)
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