編集中村 私も牛尾さん同様にポケコンからプログラミングに興味を持ったんです。自分の手で新しいもの作れるのが面白いなっていうところが私の“ハマリポイント”だったんですけど、牛尾さんがプログラミングやっていて「これがあるからやめらんないよな」みたいな好きなポイントってどこですか。
牛尾さん あー、どこなんでしょうね。子どもの頃からは変わっている気はする。昔は、無から有を作れるのが「萌(も)えポイント」やけど、今はどっちかというと、自分が分からないものが分かる楽しさみたいなのはありますね。特に今、プラットフォームに関する仕事をやっているんですけど、めっちゃ複雑なわけじゃないですか。そのめっちゃ複雑なやつが、僕が担当することで、ものすごいスループットが向上したとか、そういうのができると気持ちええな、みたいに思いますね。
後は、例えばOSの中身とか、普通は分かんないけどコード読んだら分かることもあるじゃないですか。そういう分からないものを分かる気持ち良さ、みたいなのが今の自分の萌えポイントです。将来変わるかもしれへんけど。実際、ちょっと前の自分は違うインプレッション持ってたしね。変わっていくもんかな。
編集中村 変わっていって然(しか)るべきかなと。今の自分にフィットしたものを求めるようになってくると思うので。
牛尾さん 振り返ってみると、僕はこれまでの人生を通じてやめなかったこと、ずっとやっているものって2つしかなくて。それはプログラミングとギターなんですよ。子どもの頃からやっているし、やらない時期はあっても結局またやっているんで、好きなんでしょうね。「下手くそやねんけど、やってるな」っていうのはあります。
編集中村 なんか共通項がありそうですもんね。ギターとプログラム。
牛尾さん 数学的なところはあるかもしれないですね。ギターを練習しているときにひらめいたことが、いろいろ役に立っているとか。だから基礎を大切にしなあかんっていうのも同じ。ギターの演奏でも初心者の人が、「俺のギターはフィーリングだから、楽典とかそういうのはどうでもいいんだ」みたいなこと言うけど、「その前にお前、メトロノームに合わせて練習しろ」って(笑)。
牛尾さんの「世界一流のエンジニアの思考法」を読んで強烈に印象に残ったところが3つある。1つ目は、「(優先順位という言葉に対して)海外のメンバーなら、『最初の1個をピックアップしてやったら他はやらない。その1つにフォーカスしよう』という感覚」。同じ言葉を用いても、意味するところが日本と海外ではこれほど異なる。2つ目は、「(日本の職場は)あれはダメ、これはダメと子ども扱いされる」。ある日本企業では、3回遅刻すると1回欠勤扱いという、まるで小学生を対象にしたルールがあるという。3つ目は、「日本にとって致命的な足かせになりかねない独特の『批判文化』」。コロナ禍でのCOCOA開発に際しての人格否定にまで及ぶツイートの拡散など、憤りと同時にむなしさを禁じ得ない。どうぞ皆さん、もっと人を褒めませんか。
珠玉の名言は、インタビューのあちらこちらにあふれている。自分の幸せ度合いと、やりたいことのバランスを中心にすれるからこそ、自然体でいられる。「自分はポンコツ」「ADHDなので、過去の詳細をよく覚えていない」と、インタビュー中も終始リラックスして、素顔で語ってくれた。むしろそれが最大の強み。「だから人の3倍やればいい」とケロッとした顔でおっしゃった。「自分の人生や幸せに責任を持って、自分でコントロールする」。その先で「失敗しながらも『世界の市場に挑戦する』ことができるソフトウェア技術者」になれるのであれば、それ以上の仕事は、他にないのではないか。
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