Intelが大規模なレイオフを発表した。過去にも何度かレイオフを実施しているが、今回は少し様子が違うようだ。半導体の雄、Intelに今何が起きているのか、筆者が分析する。
Intelにもついに年貢の納め時がやってきているようだ。2024年8月1日付のプレスリリース(とはいえ、CEOのPat Gelsinger(パット・ゲルシンガー)氏からの「従業員向け」である)で大規模な人員削減と配当金ゼロが発表されている(Intelのプレスリリース「Actions to Accelerate our Progress」)。
Intelに限らず米国企業のレイオフなどは「いつもの」ことではないか、と感じるかもしれないが、今回の発表は「いつもの」ではない切迫感がある。世の中AI(人工知能)に湧いている中、AIを支えている企業の一社であるはずのIntelが、もうかっていないのだ。
長い歴史のあるIntelのことだ。従業員の解雇や工場閉鎖などに踏み切った過去は多々ある。その中でも印象深いのは、Pat Gelsinger氏がまだ若手の超優秀エンジニアとして働いていた頃のそれだ。「過激で前向き」なリストラだった。
当時の半導体不況の中、同業他社が投資を抑制する中、Intelも一部事業の断念やら工場閉鎖などを実行した。しかし同時に、あろうことかお客がまだついていない製品への積極投資に打って出たのだ。
その製品こそ、Pat Gelsinger氏が当時関わっていた32bitマイクロプロセッサ「80386」である。市況回復後、ためらっていた同業他社を尻目に先行投資したIntelは快走し大を成していくのである。よいリストラの典型例といえるだろう。だが今回のリストラは、そのような前向きのものには見えない。
Intelの現状について勝手な見解を述べさせていただこう。ザックリまとめるとIntelを支えているのは、次の3本柱といえるだろう。一般消費者(コンシューマー)向けPCのCPU、クラウドのデータセンターのサーバ機向けCPU、そして先端半導体を製造するファウンドリである。何せ10万人から社員のいる会社なのでこれ以外の事業も多いのだが、お金の出入りが多いのは上記の3事業であるように思われるからだ。
一般消費者向けPCについて見ていこう。IntelはB2Cで直接ビジネスしているわけではなく、あくまでPCメーカーなり商社なりを介してコンシューマーと向き合っている。しかし、PCを選ぶ消費者からはIntelという金看板が見えている。長年のテレビコマーシャルのおかげかもしれない。
この分野は、金銭的に状況がそれほど悪くなっているわけではないと想像するが、暗雲が立ち込めているのだ。ゲーマーの人たちはよくご存じと思うが一部のIntel製CPUの不良の問題である(Intelのサポート情報「インテル Core 第13世代および第14世代デスクトップ・プロセッサーの不安定性の問題の概要記事」)。誤動作するとかいうような程度でなく、場合によっては不可逆的に壊れるようだ。大問題である。部外者には詳細は全くもって不明なのだが、半導体ビジネスでは時々遭遇するような問題だ、と言い切ってしまおう。収束には結構な時間がかかるはずだ。
フィールドで発生している問題の物理現象を正確にかつ統計的に適切に把握し、その対処方法を決め、そして製造、テストを繰り返して、品質保証にフィードバックしなければならない。1カ所の設計変更でもお釜に入って出てくるまで何週間もかかる半導体である。思い付いて即とはいかないのが通例だ。それに既に不良品が外部に大量に出荷され使われてしまっている状態である。
営業的には補償問題やら交換といった現物への対応もせねばならず、短期的には問題がある現流品の代替品の製造も続けねばならず、そして根本的な対策もした上で、設計中や計画中の製品にも対策を徹底しないとならないわけだ。これは別にIntelだけに限った状況でもない。筆者も「設計まで総動員、交代勤務で24時間対応したな」とか「飛行機に乗って週に3回も客先に状況報告(謝罪)に行ったなぁ」とか思い出すわけである。まぁ対応している最中はてんてこ舞いで消耗は激しい。
データセンター向けCPUは、どうだろうか。昔の記事に「Intelの金城湯池」と書かせていただいた記憶がある(頭脳放談「第238回 AMDが狙うデータセンター市場は前門のIntel、後門のAmazon?」参照のこと)。一時はIntelの金のなる木のようだった分野だが、どうも様変わりしているようだ。
AIのおかげでデータセンタービジネスの需要は急増している。新設、増設は続いているはずである。そして、一度設置した設備でもある年限になれば更新するのが普通な業界だ。データセンターは半導体の継続的で巨大な需要者である。結局、今のIntelはその旺盛な需要(お金)の流れを取りこぼしてしまっていると思われる。
ライバルのAMDへ流れているお金もあるだろう。しかし、それ以上のダメージが2つあると思う。1つはNVIDIAのGPUだ。AIといえばNVIDIAという定番化のおかげで、IntelのCPUにかけるお金を削ってでもNVIDIAのアクセラレレータにお金をかけたいという判断が多いのでないだろうか、当方の勝手な想像であるが。
もう1つのダメージは、データセンタービジネスの最大手、Amazonの動向に表れていると思う。Amazonは、Intel製CPUのノードも運用しているが、自社でサーバ機向けのCPUを設計して、製造は外部に委託するようになってきている。コアはArmである。
Armコアの自社製CPUの方がコスパでIntel製よりも良いという判断があるのだと思う。こういう状況下で、Intelは昔のような粗利をむさぼるような値段付けはできないだろう。ボリュームのある需要家に対しては、清水の舞台から飛び降りるような値引きをして案件をゲットしているのではないか。これも筆者の推測だが。
そして、最後がファウンドリビジネスだ。半導体製造における米国最後の砦として政府から巨額の補助金を受け、にぎにぎしく開始されたファウンドリビジネスである。
しかし、実はそのWebページを見ていてちょっと違和感があった。書きぶりからして高性能で高機能な製品にフォーカスしている。アカラサマには書いていないが、当然の高価格志向な感じを受けた。これまた個人の感想だが。
昔、微細化、高速化で世界トップを走っていた頃のIntelであれば当然かもしれない。しかし紆余(うよ)曲折あってTSMCの後塵(こうじん)を拝している現況で、「この志向は何だろ〜」という感じがしている。
ファウンドリ業界の2番手以降は、細かい(そしてお安い)案件でも積極的にゲットして、必死に工場稼働率を上げているのが普通じゃないかと思うのだが……。はっきりいってIntelファウンドリは、かなり殿様商売のニオイがする。今回のプレスリリースでハッキリしたが、お高くてボリュームの大きな案件ばかり志向する方向性は、逆に言えば細かい案件をかき集めてもペイしない体質の裏返しだったということだ。
先のプレスリリースの中で、Pat Gelsinger氏が自ら認めている通り、今のIntelは低利益、高コスト体質が染みついているようだ。硬直して官僚的になり判断が遅い。1万5000人削減の配当ゼロも致し方ないだろう。さらに言えば、リストラするのにもお金がかかる。Intelは金満(?)だった頃に傘下に入れた子会社やら投資先もいろいろあるはずだ。それらのうち、手っ取り早くお金になるものは売り払われる可能性もあるだろう。
また、2024年8月1日付で前述のプレスリリースが公開された時、多くの従業員の人々にとっては、寝耳に水のリストラ話だったはずだ(そうでないとインサイダー取引になる可能性が高い)。当然、「四半期ごとの業績がさえないなぁ」「昇給やボーナスはどうなるのかなぁ」などと思っていただろうが、それまで決まっていた行動計画や予算に基づいて業務を続けてきたはずである。
しかし、リストラ話が出てしまったわけだ。それ以前に進んでしまっていたプランなどは、今後、見直し必須と思われる。例えば、日本国内でも、Intelがシャープの液晶工場の跡地を、製造装置など関連企業と共同で半導体の研究拠点に活用するなどという話が出ていた(2024年6月6日付)。プレスリリース後にも、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)技術拠点を整備するのに産業技術総合研究所(産総研)がIntelと協力する(2024年9月5日付)といった記事も出ていた。
そういった数々の計画は、リストラ話の前に進行していたと思われる。現時点では、経営レベルでのリストラの方向性や、リストラによって削減された資金をどこにどうフォーカスしていくのかは明らかにされていない。細かい計画はそれが決まってからの取捨選択になろう。
何せ、Intelもついに上下分離、ファウンドリ部門の分離または売却を相談しているという話が出ているくらいなのだ。その第一歩なのか、ファウンドリ部門の子会社化が発表されている(Intelのプレスリリース「Pat Gelsinger on Foundry Momentum, Progress on Plan」)。組織によっては解体もあり得る。後ろ向きにも見えるリストラを、かつてのような反転攻勢へのきっかけにできるのか、Pat Gelsinger氏の決断に懸かっている。
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。
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