作成したプログラムに著作権があり、勝手な流用は認めないと主張する開発企業。対するユーザー企業は「こんなもの、誰でも作れるでしょ」と突っぱねた。開発企業の訴えは裁判所に認められるのか――。
今回はプログラムの著作権について解説する。
コンピュータのプログラムは、著作物に当たるかどうかの判断が非常に難しい。著作権法では第2条一において、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定めており、著作者ではない者が著作者の許諾を得ることなく利用したり、複製したり、翻案したりすることなどを禁じている。そして同じく著作権法第2条十の二において、コンピュータのプログラムも著作物と判断し得ることが規定されている。
しかしそもそもプログラムとは「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、コンピュータに期待通りの動作をさせるための命令の羅列であって、この規定をそのまま当てはめることには無理がある。とはいえプログラムの制作には一般に技術者のさまざまな工夫やアイデアが必要であり、何らかの形で保護しなければ多くの技術者やその所属団体が納得しないことだろう。
頭に汗をかき、自分だからこそ思い付いたアイデアを他人に何の制約もなく複製され便利に使われたり参照されたりするようではプログラミングなどやってはいられない。自分が一から努力して作り上げたプログラムと、それを他人が勝手に複製して作ったプログラムが、同じ機能や性能を持つからといって同じ価値で取引されることなど到底受け入れられないだろう。
これまでの裁判ではプログラムについて、「そこに独自の工夫やアイデアがあるかどうか」を見定めて、著作物に当たるかどうかを判断しているケースが複数見られる。
ある機能を実現する上で、言語の規則やシステムの制約上、誰が書いてもおおむねこのようなプログラムになるであろうというものは著作物とは認められない。しかし、他人が思い付かないであろう工夫で、複雑な処理や使い勝手の良い画面、速度の向上などを実現したのであれば、著作物と認められる可能性はある。これまでの裁判の例を見ると、おおむねそのような判断がなされているようである。
とはいえ、では何が独自の工夫やアイデアなのかというと、これもまた判断が難しい。恐らく今後、数多くの判決が出される中で徐々に修練していくものなのかもしれない。
今回はそうした裁判の事例の中では比較的明確にプログラムの著作物に関して言及されているものを見ていきたい。非常に古い技術を巡る裁判ではあるが、争点自体は現代でも有用であるため紹介することとした。
事件の概要を見ていこう。
ある企業(以下、ユーザー企業)がグラブナビゲーションシステム(水底の土砂などを掘削する船舶のナビケーションなどを行うシステム)の一部をソフトウェア開発企業(以下、開発企業)に依頼し、開発および機能追加を行った。ところがユーザー企業は、開発企業の作成した機能を利用するなどしてプログラムを開発し、別途プログラムを販売するなどした。
開発企業はこれについて自らの作成したプログラムについての著作権侵害に当たるとして訴えたが、ユーザー企業は、このプログラムは著作物に当たらないと反論した。
出典:裁判所Webサイト 事件番号 平成16年(ワ)第11546号
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