(本件システムの)保守管理の内容としては、自らが製作供給したソフトウェアが当初の目的通りに有効に作動する状態に置くことをベンダーの義務とするものと解すべきところ、
(中略)
(ベンダーが責任を果たしたと言うためには)仮にベンダーの供給したソフトウェア以外の問題に起因する不具合であったとしても、
(中略)
供給したソフトウェアが有効に作動する状態に置くことを内容とするベンダーの義務に反することを否定することはできない
少し持って回った言い方だが、要するに、「自らが製作したアプリケーション以外の問題が原因であっても、アプリケーションが正常に動作しないのであれば、対処する責任を負うのは保守管理者である」ということだ。
システムを開発し、そのまま保守管理を請け負うベンダー(通常、こうした契約が多いと思う)には注意が必要かもしれない。システムを開発する際の請負契約と保守管理を請け負う場合とでは、責任の範囲が分けて考えられるということだ。
どのように分けるのかは、それこそ契約の文言による。
開発時は、「ベンダーが作成するアプリケーションの動作が正しいことは保証するが、その土台であるOSやミドルウェアについて責任は負わない」という場合もあるし、「それらも含めて責任を負う」という場合もある。保守管理時も「アプリケーション部分のみを保守する」場合と、「OS、ミドルウェア全てを含めたシステム全体を対象とする」場合もある。
注意したいのは「システム開発時点で責任範囲をアプリケーションのみとしても、それが当然に保守管理の範囲となるわけではなく、保守管理の契約においては、また新たにベンダーの責任範囲を確認する必要がある」ということだ。
開発するベンダーと保守管理をするベンダーが異なる場合を想定すれば、ごく自然なことである。会社Aが作ったシステムの保守管理を別の会社Bが請け負うとき、Bの担当者は自分たちの責任範囲がアプリケーションのみなのかシステム全体なのかを確認した上で見積もりし、契約するはずだ。
しかし自分たちが作ったアプリケーションを含むシステムの保守管理となると、その範囲はアプリケーションのみであると誤解してしまうことは十分にあり得る。例えば、アプリケーション開発において、OSやミドルウェアは発注者側が別途調達したものである場合、開発中ならOSの不具合で正常に動作しないなら、それは発注者側が解決の責任を持つかもしれなかったが、保守管理となった途端に今度はベンダー側の責任になってしまう。この判決はそうした区別をしっかりと認識し、おのおのに明確な約束が必要であることを示唆している。
発注者からすれば、システムの保守にシステム全体の安定稼働を期待するのは当然のことだ。しかし開発した保守管理者にとってそれは当然ではないかもしれない。ここを明確にするため、開発後の保守フェーズに入るには、業務内容や責任範囲、特にシステムが正常に動作しない場合のいわゆる異常系について明確にしておく必要がある。ベンダーの営業担当者各位には重々認識していただきたい。
ITプロセスコンサルタント。元・政府CIO補佐官、東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。
独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまでかかわったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。
2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わった
個人サイト:CNI IT Advisory LLC
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