ここまで、土木・建設現場におけるデジタル化についてみてきたが、幾つかの疑問が浮かぶ。
1つは「オペレーターの訓練」だ。そもそもICT施工は初めてでもできるものなのか、オペレーターの訓練が必要なのではないか?
また、腕に自信がある熟練した技術者にとっては、自分の仕事や技術に対する誇りが「奪われる」感覚もありそうだ。それらに対する反感は起こらないのだろうか。
「オペレーターの訓練について、当初は必要でした。しかし、現在は重機の免許さえ持っていれば、初めて乗っても大丈夫なようにマニュアルを作成したり、現場で説明会を開いたり、3次元図面の作成からICT建機での施工、出来形管理などの内製化を進めています。
技術者からの声として、『自分の仕事がなくなるんじゃないか』『あまりうまくなくてもいいのではないか』といった声は実際にあります。その場合は『ICT施工は経験が少ない人でもできるようにするものだよ。でも実際の現場では、ICT建機ではできないこともあるし、不測の事態や急きょ施工の手順が変更になる場合もある。その時に生きるのは、これまで培ってきた技術や経験だよ』とフォローするようにしています」
ICT施工は、扱うのが大型の重機だけに「専門的で高度な技術が必要なのではないか?」という印象がある。だが、2022年から取り組み始めて、約3年という短期間で、実際の工事現場でICT施工ができるようになったのは意外だった。
「『まず、やってみること』だと思うんですよ。公共工事の場合、やり方は要領書に書いてあります。それを『どう活用するか?』という話なんです。だから、まずは恐れずに、とにかくやってみる……ということが大事なのかな? と思いますね。やってみると、そんなに難しいものでもありません。思ったよりもできるものです。『とにかくやってみる』に尽きますね」
建設業はいままで、どちらかといえば男性が働く危険な職場というイメージだった。だが、ICTを導入することによって、性別や年齢にかかわらず働きやすくなる。ひょっとしたら、人手不足の問題解決にもつながるかもしれない。
「いま、建設業は業界全体が人手不足で、高齢化が進んでいます。わが社はその中で、女性の活躍と若手の育成、現場の人たちの負担低減のためにICT導入を進めています。実際、現場の人たちの残業時間が減って働きやすくなりました。
最近では将来を見据えて、『女性も活躍できる』メッセージとして、女性の働きやすい環境を整えていく『ともやま小町』という取り組みをしています。女性専用休憩室の設置やヘルメット、日焼け止めなどの支給、女性従業員による建設現場視察などを行っています。
また、若い世代の皆さんに、いまの建設現場を知ってもらおうと、地域の中学校の職場体験を受け入れています。建設業を盛り上げたいんですよね」
地道な取り組みによって、会社説明会への参加も増えているそうだ。
最後に、会社や業界に対する今後の展望について聞いた。
「これまでデジタル化に取り組んできて、『技術が変わると、人が変わってくる。人が変わると、業界も変わってくる』というイメージがあって。
例えば、新たなことが1つ形になると、現場の技術者たちが『なるほど、こういう形なのね』って分かる。すると、今度は現場から『それなら、次はこういうことができない?』みたいな新たなアイデアが出てきたり、『じゃあ、ここはまだ課題だね』といった議論が始まったりする。
課題を解決するために、アイデアを出し合う。技術を提供する。要は、デジタル化に前向きになってくれたんですよね。こういったことが、当社の技術者やゼネコンさん含めて、いろいろなところで起こっていて。
これは本当に最近なのですが、そういう流れや変化が起こり始めていることに、自分自身も楽しくなってきました。これからも、気の合う人たちを巻き込んでいって、いい流れで、建設業界全体のDXにつながっていくことを、いま、目指しているところです」
自社内でDXやデジタル化を進め、課題解決に取り組んでいる企業や団体の方がいらっしゃいましたら、下記までご連絡ください。
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しごとのみらい理事長 竹内義晴
「楽しくはたらく人・チームを増やす」が活動のテーマ。「ストレスをかけるマネジメント」により心が折れかかった経験から、「コミュニケーションの質と量」の重要性を痛感。自身の経験に基づいた組織作りやコミュニケーションの企業研修、講演に従事している。
2017年よりサイボウズにて複業開始。ブランディングやマーケティングに携わる。複業、2拠点ワーク、テレワークなど、これからの仕事の在り方や働き方を実践している。また、地域をまたいだ多様な働き方の経験から、ワーケーションをはじめ、地域活性化の事業開発にも携わる。
元は技術肌のプログラマー。ギスギスした人間関係の職場でストレスを抱え、心身共に疲弊。そのような中、管理職を任され「楽しく仕事ができるチームを創りたい!」と、コミュニケーション心理学やコーチングを学ぶ。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。
著書に、『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)』などがある。
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